就活 [日々のこと]

実は今。。。
就職活動真っ最中!!!
先月、思いもよらないことが起こり
職を失った

なんで、こんなことになったのか。。。
。・゚・(*/□\*)・゚・。ウワァーン

まぁ、悔やんでみても仕方ない
前を見て進むのみ!!!

とはいえ、50歳を過ぎての就活は
なかなか難しい
30年間、歯科医院で働き続けてきた
何軒かの歯医者で。。。ずっと。。。
今更、他の業種で働くのは。。。
年齢的にちょっと大変そうだ
けれど、やるしかない

全部、自分でまいた種
自分で刈り取らなきゃね

これからは、あまり無理のない仕事量で
仕事をしたいと思っている

今までは、とにかく休めなかった
受付が出来る人が私一人
なので。。。私が休むと
誰もカルテを作れない
それは、診療が出来ないということだ

今年に入って
肉離れをおこして
足が曲がらなくなった。。。

でも、足を引きづりながら、出勤
叔母が亡くなった時も
お葬式には出られなかった

母が、胸椎の骨折で
救急車で運ばれた時も
一応、病院まで行ったが。。。
すぐに職場に戻ることになってしまった

ここで。。。私の立場を一言

私は、歯科医院の受付をやってる
パートのおばさん!!!
であった

ただのパートなのに
待遇はパートなのに
有給も保険もないのに
週4日。。。きっちり8時間
しかも、休めない

休めないにもほどがある
今回、退職したのをきっかけにして
もう少し、仕事を減らして
せめて、だんな様と休みが合うようにしたい

それで、暮らしていけるかどうかは
微妙だけど。。。

とりあえずは、雇ってもらえるところを
探さなきゃ。。。

今日は、生まれて初めて
「職務経歴書」というものを作成した

なんか。。。私の人生って
紙切れ一枚に収まるんだなぁ。。。と実感

明日は、履歴書を買って来ようっと。。。
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明日~右手の夢~ [ちょっと長めの物語]

はじめに。。。
このお話は、以前ここに載せさせて頂いた「右手の夢」というお話を
ちょっとだけ、改稿した作品です。

投稿用に、エピソードを少し足したので
ブログ用としては、だいぶ長くなってしまいましたが
どうぞ、ご容赦くださいませ。。。

なんと、原稿用紙換算すると
20枚越え。。。。・゚・(*/□\*)・゚・。

読み疲れてしまわれるかもしれません。。。
ごめんなさい
最初に、謝っちゃいます。

お忙しい方は、スルーして頂いて大丈夫です。
それでも、読んでくださる方。。。

感謝、感謝、感謝です。。。

我儘にお休みして
また、我儘に戻ってきました。。。
自分勝手な私ですが
どうぞよろしくお願いいたします。。。
  
     春待ち りこ


image65.gif



『明日~右手の夢~』


◎三嶽 涼◎
 
「今度こそ、優勝出来ますように。」

両手を合わせて祈る
もう、神頼みしか方法が思い浮かばない
効果があるかどうかはわからなかったが
僕は真剣に祈った
今日は、スイーツコンテスト『ジャパンカップ』の最終日
決勝まで残った五人で優勝を争う

これまでのコンテストでは、僕はいつも準優勝ばかり
人一倍頑張っているのに。。。どうして?
いや、理由はわかっている。
僕のスイーツは、面白くないのだ
前回のコンテストでも、審査員の先生に酷評された
 
「けなすところが見つからない。
 完璧だから、どこかつまらない。
 スイーツと言うのはね、言うなればときめきだ。
 君のスイーツは、確かに美しいし美味しい。
 ただ、感動に欠けるんだよ。
 優勝した海斗君のスイーツは、
 雑なところもあるのだけれど
 未完成の魅力とでも言おうか、そんなものがある。
 そこがまた、人を感動させるんだな。
 テクニックは、確かに君の方が上なんだけどね。」

言ってることは、わからなくもない
けれどそれじゃあ、どこをどう直せばいいのか
まるでわからないよな

でも、僕には決心していることがあるんだ
今度のコンテストで優勝出来たら
美鈴にプロポーズをする
そして、それが叶ったら
2人でケーキ屋さんを開くんだ
だから、今度こそ、何がなんでも優勝しなきゃ

気が向いて、神社でおみくじを引いてみた
なんと。。。凶

思いがけないことの連続
大きな試練の時。。。だって

マジかっ
今回もまた、優勝出来ないのかな
ちょっと弱気になりながら
コンテスト会場へ向かおうと
横断歩道に一歩踏み出した
その時。。。
激しい衝撃と共に
僕の身体が宙に浮かんだ
固い地面に叩きつけられる
右手が。。。
やけに暖かくなった
ふと見ると
僕の右手は真っ赤な夕焼けより
もっと真っ赤に染まっていた。。。

 
 ◎村瀬 隆◎

あの日は、とても疲れていた
急ぎの仕事が入ってしまって
前の晩から一睡もせずに
トラックを運転し続けていたから
いや、そんなこと何の言い訳にもならない

居眠り運転。。。

ほんの一瞬だけ、意識が飛んでしまった
気付いたら、目の前に人がいた
慌ててブレーキを踏んだが間に合わない
ゴンっと鈍い音がする

俺は。。。人を轢いてしまった

すぐに、救急車を呼んだ
警察もやってきた
倒れている青年の右手は
血で真っ赤に染まっていた

あとのことは、実はよく覚えていない
血で染まった彼の手が
俺の心を完全に握りつぶして。。。
それはまるで、悪夢のようだった
長距離トラックの運転手になって十五年
今まで、一度だって事故など起こしたことはない
それが、人身事故。。。
何てことをしてしまったのだろう

俺の轢いてしまった青年は
パティシエだそうだ
それも、コンテストに入賞するような
腕のいいパティシエ
彼の右手を潰してしまったということは
彼の将来も潰してしまったということだ
取り返しのつかないことをしてしまった

俺は、一生をかけて
償ってゆくことを心に誓った。。。


 ◎三嶽 涼◎

コンテスト当日の交通事故
もちろん、出場することは出来なかった
それどころじゃない
僕の右手は、ほとんど動かない

もう、ケーキなんてやけないよ。。。

こらえてもこらえても
涙が溢れて止まらない
どうしてこんなことになったのだろう

美鈴は毎日、お見舞いに来てくれた
その優しさが唯一の支え
それでも、僕の気持ちが晴れることはない

僕を轢いたトラックの運転手
居眠り運転だったらしい
僕は、奴を許さない
僕の右手も夢も将来も
全部奪った男

何度もお見舞いに来ているらしいけど
とても会う気になれない
もしも今、奴にあったら。。。
僕は奴を殺してしまうかもしれない

もっとも。。。

この動かない右手では
ナイフひとつも握れはしないよな。。。

そう思ったら、また泣けてきた


 ◎村瀬 隆◎

あの青年はまだ、一度も俺に会ってはくれない
とりあえず毎月、お金を送り続けている
飢えない程度の生活費を除いた出来る限りの額
どんなにお金を送ったところで
俺のしてしまったことが許されないのはわかってる
けれど、それしか償う方法が見つからない
毎日がとても辛い
せめて、会って直接謝ることが出来たら
少しは楽になれるのだろうか。。。

いやいや。。。
俺は何を考えているのだろう
楽になることなんか考えちゃいけない
そんなこと、許されるわけがない
それだけのことを。。。
俺はしてしまったのだから


 ◎三嶽 涼◎

僕は、宙に浮かんでいた
下を見下ろすとそこには
もう一人の僕が地べたに座り込んでいる

あぁ。。。夢を見ているんだな。。。

僕が僕を見下ろすなんて状況
そうでもなければ説明がつかない

夢の中の僕は、右手を
以前のようにしっかり動かしていた
夢だとわかっているのになぜか
ほっとした
そのうち、もう一人の僕は
ふっと立ち上がる
その右手に、何か持っていた

あれは。。。ナイフだ

その時、すぐにわかった
僕はあの男を
僕を轢いたトラックの運転手を
殺しに行こうとしているんだ

事故以来、ずっとずっと
あの男を憎み続けていた
医師は、リハビリをすれば
日常生活くらいなら
普通に送れるようになるはずだと言った
でも、僕は細かい作業の出来る
元の右手に戻して欲しいと願っていた
そうでなければ
昔のようなケーキを焼くことは出来ないからだ
細部までこだわるケーキを作るのが、僕の夢
だが、その真実を突き付けられたとき
僕の右手の夢は砕けた
リハビリを積極的にする気すら失せてしまった
そして、ただただ。。。
こんな身体にしたあの男を恨んだ

でも、待てよ。。。
あそこにいる僕の右手は動いている
せっかく動いている右手を
人殺しのために使うのか?
 
心の中に違和感が生まれる
だって、もう一人の僕の右手は
ケーキが焼ける右手なのに。。。


 ◎村瀬 隆◎

俺は、逃げていた
追ってくるのは、血で真っ赤に染まった右手
でも、あの右手を赤く染めてしまったのは
他でもない、この俺だ
そう思ったら、動けなくなった
逃げてはいけない。。。
右手はすぐに俺に追いつき
そして、俺の首を絞め始める
死んでも構わないと思った
そのほうが、楽になれると。。。
首を絞めつけられる苦しさで
俺は、目を覚ました

「ふっ、夢か。」

俺は生きていた
そうだよな。。。
簡単に楽になったりしてはいけない
俺はこの苦しさを背負って
生きていくしかないのだ
当たり前だ
罪を犯してしまった俺への
これは当然の罰

さぁ、今日もしっかり働こう
俺の時間を少しでも多くのお金に換えて
あの青年に送ること
今の俺に出来るのは
それくらいしか無いのだから。。。


 ◎三嶽 涼◎

今日は、再出発の日
天気は晴れ
お日さまも僕の門出を祝ってくれているようだ
僕の焼いたケーキを美鈴が
ショーウィンドーに並べている

やっと、この日を迎えることが出来た

ここまで来るのに、五年かかった
最初は暗闇の中を絶望と一緒に
彷徨うだけの日々
思うように動いてくれない右手を見つめながら
僕をこんな身体にしたあの運転手を
殺してやりたいほど憎んだ

憎んで。。。憎んで。。。憎んで。。。

でもさ、憎しみだけで暮らすには
人生は長すぎた
毎日毎日、笑わなくなった僕に
美鈴は明日の話をし続けたんだ

「明日は、晴れるかなぁ。」

ある日、美鈴がそう呟いた
その時僕は、明日の天気なんて
どうでも良いと思っていた
黙ったままの僕にはおかまいなしで
美鈴は、明日の話を続ける

「明日晴れたらさ、
 洗濯物がよく乾くよ。
 この病院の屋上には
 おっきな物干しがあってさ。
 晴れた日にそこで洗濯物をほしてると
 宇宙が私の味方をしてくれてるんだなって思うのよ
 洗濯物を乾かしたいと思ってる私のために
 お日さまの光をたくさんプレゼントしてくれるなんて
 宇宙に感謝したくなるでしょ。」

「ぷっ」

僕は思わず、吹き出してしまった
事故後の初めての僕の笑顔は
こんな他愛もない美鈴の明日の話から
思わずこぼれ出たものだったんだ

「あっ、笑ったわね
 どうせまた、大げさな女だって思ったんでしょ。
 でもいいの。
 だって、ほんとにそう感じるんだもん。
 宇宙を味方につけるなんて私って
 実は、凄いんじゃないかな。。。
 なぁんて思うと、ちょっといい気分よ。」

「美鈴って、まったく、どうして。。。」

あとは、もう言葉にならず
僕はなぜか、泣き出してしまった
あの時の気持ちは、なんて言ったらいいのか
今でもよくわからない
美鈴には、不思議な魅力があった
こんなふうに天気がいいというだけで
宇宙が味方してくれてると感じる人は
そう多くはいないんじゃないかな
でも、彼女はいつもそんなふうに明日を
そして、未来を語る
僕の右手が動こうが動かなくなろうが
そんなことは関係なく
美鈴の前には、いつも輝く未来があった
そしてその輝く明日は、もしかしたら。。。
右手の動かなくなった僕にも掴めるかもしれない
と思うくらい近いところで
確かにキラキラ輝いているのだ

たとえば、明日が晴れたとしよう
僕は、この憎しみだけの世界から
たった一歩だけ踏み出して
美鈴と一緒に屋上へ上がる
そしたら、それだけで
宇宙を味方につけたすっごい美鈴の
抜けるような輝く笑顔に出会えるだろう
そして、そんな笑顔に出会えるかもしれない僕の
。。。僕の明日も案外。。。
捨てたもんじゃないのかもしれない

初めて、憎しみ以外の感情が
心の奥に芽生えていた
僕の未来が、始まったのだ

それからは、美鈴と共に
僕も毎日、明日の話をした
気分もだいぶ軽くなって、リハビリも順調に進む
僕の右手は、少しずつだが確実に
動くようになっていった
もちろん、昔のように繊細なお菓子作りは無理
そのことは、自分でもよくわかっていた
それは、やっと笑えるようになった僕の心に残る
晴れることのない闇。。。

「ねぇ、久しぶりに涼くんの作った
 スイーツが食べたいんだけど。」

突然、美鈴がびっくりする事を言い出した

「えっ。そんなの無理に決まってるだろ。」

いったいどんなつもりでこんなことを言うのだろう
戸惑っている僕に美鈴は、こんなふうに言ったんだ

「何もコンテストで優勝するような
 スイーツが食べたいわけじゃないのよ。
 涼くんの作ったものなら何でもいいの。
 まだ出来ないことがあるなら
 言ってくれれば、私が手伝うわ。
 実はね。。。
 中学の時に涼くんが初めて作ってくれたクッキー
 あの焦げたクッキーが、今まで食べた
 どんなスイーツよりも美味しかったって思っているのよ。
 なんでかな。。。
 きっと、懸命に作ってくれた想いが
 隠し味になったんだよね。
 こんなことを言うと完璧主義の涼くんは
 怒るかもしれないけど。。。」

「完璧主義?
 僕は、完璧なんかじゃないよ。」

「よかったぁ。
 だったら作ってくれるわよね。
 焦げたクッキー。」

「無理に焦がすのは、やっぱり嫌だけどね。
 美鈴のためなら、挑戦してみるか。」

そうして僕はまた
スイーツを作る決心をしたんだ。。。


 ◎村瀬 隆◎

今日、ポストに一通の手紙が届いていた
差出人の名前を見て驚く
三嶽 涼。。。
あの青年の名前だ
俺が轢いてしまったあの青年
便箋には。。。
「お待ちしています。」
の言葉の後に、日時と場所が記されている
あの事故から五年
彼から手紙がくるなんて思ってもみなかった
あの青年が来いと言うのなら
どこへでも行こう
それがたとえ。。。
地獄であっても。。。だ


 ◎三嶽 涼◎

僕は、店の開店日に彼を招待した
僕が憎んで憎んで
殺してやりたいとまで思っていた
僕を轢いたトラックの運転手
あれから、五年間
彼は毎月、僕にお金を送り続けてきた
噂で聞いた話だと彼はこのお金を送るために
昼も夜もなく働いているらしい
おそらくそれが、彼なりの罪の償い方なのだろう
だから。。。
僕は彼を招待したんだ
僕はもう、彼を憎んだりしていない
それをわかってもらうため
そして、もう送金はしなくていいって
直接会って、話したかった


 ◎村瀬 隆◎

あの青年に会うために俺は
地図に記された場所へ向かった
 
 『トゥモロウ』

そう書かれた看板が俺を迎えた
ケーキ屋?
俺はちょっと緊張しながら
その店の中へ足を踏み入れた


 ◎三嶽 涼◎

僕の前に現れたその人は
とてもみすぼらしい身なりをしていた
頬は痩せこけ、身体もガリガリ
充分に栄養が足りているとは
とても思えない
手も荒れ放題で、おまけに爪は
真っ黒に染まっている
彼がそんな姿である理由を僕は知っている
あの事故から五年。。。
僕の口座に今も彼からの送金は続いている
毎月毎月。。。途切れたことは一度もない
金額は、びっくりするほど多くて
そのお金を稼ぎ出すために彼が
かなりの無理をしているだろうことは
想像が出来た

だけど。。。

僕は知らないふりをしたんだ
お金にも、最初は手をつけなかった
彼の稼いだお金など、使いたくはなかったから
彼を許すつもりは、毛頭なくて
ただ。。。
苦しんでくれればいいと思っていた
僕の夢を奪ったのだから
苦しんで当たり前だと
僕は自分の明日とはぐれたあの日
人の心すら見失ってしまったんだ

でも、今ならはっきりわかる
彼がどんな気持ちで
この五年間を過ごしてきたのか
僕が絶望と暮らしたあの時間は
彼にとっても地獄のような日々だったことだろう
罪の意識に苛まれながら
何度、眠れぬ夜を過ごしたのだろうか

僕には美鈴がいた
美鈴は僕に、明日の話をしてくれた
飽きもせず。。。懲りもせず。。。
毎日毎日。。。
僕の時間が動き出すまでずっと
そうしてやっと、僕は今ここにいる
あの頃の僕の時間を動かすなんてことは
たぶん、美鈴にしか出来なかった

だからこそ思うんだ。。。

僕の目の前で、罪の意識に潰されそうになりながら
それでもここへ。。。
僕の所へやって来てくれた
彼の時間を動かしてあげられるのは
おそらく、僕だけじゃないかって。。。

実は、この店をオープン出来たのは
彼の送り続けてくれたお金があったからこそだった
この店の半分は、彼のものだと言ってもいい
だったら。。。
僕は、たった今思いついたこの考えを
彼に提案してみることにした
彼にとっては、恐ろしく迷惑な事。。。
かもしれないけれど


 ◎村瀬 隆◎

「本当に申し訳ありませんでした。」

そう言って、深く頭を下げることしか
俺には出来なかった
許されようなんて思っていない
許されるはずもない
俺が奪ったのは、彼の未来なのだ

「どうか、頭をあげてください。
 僕があなたをここに呼んだのは
 謝ってもらうためなんかじゃないんですよ。
 見てもらいたかったんです。
 僕の新しい夢。」

下げた頭をゆっくりあげる
するとそこに。。。
俺は信じられないものを見た
激しく責められる覚悟をしてきたこの俺を
満面の笑みで迎えてくれている
。。。あの青年の姿

「あのですね。。。
 僕なりにいろいろ考えたんですが
 聞いていただけますか?
 あなたに『事故のことは忘れてください。』
 と言っても、聞いてくれそうもない。
 『もう、お金はいらないです。』
 と言っても、たぶん。。。
 あなたは送金をやめないでしょう。
 かと言って、あなたが生活費を切り詰めてまで
 お金を送ってくれるのを
 僕だって、知らん顔はしていられない。
 そこで、提案なんですが
 このお店を手伝ってもらえませんか?
 この先まだ、どうなるかわかりません。
 給料だって、安いですし
 もしかしたら払えない時もあるかもしれない。
 それでも、あなたに手伝って欲しい。
 僕に今、必要なのは
 お金よりもむしろ、労働力なんです。
 僕の右手では
 上手くケーキを運べそうもないので
 力になってもらえませんか?
 もちろん、あなたがこういう仕事を
 嫌でなければ。。。ですが。」

今まで、会うことすら叶わなかったこの青年の
あまりに意外な提案に、俺は面食らった

「俺に、ここで働けと?」

どういうことになるのか
それは俺にもわからなかったが
彼がそれを望むなら
俺に断る権利などあるはずもない

「わかりました。お世話になります。」

俺はもう一度、彼に深々と頭を下げた


 ◎山崎 直人◎

「おぉ、ここだ。
 それにしても、ネーミングセンスは
 ゼロだな。。。
 『トゥモロウ』って
 これでは何屋かわからんぞ。
 でもまぁ、問題は味だからな。」

美味しいケーキがある
そう聞けば、どうしても食べたくなる
それが私の性分だった
最近、ネットの口コミで話題の店
ここのケーキは、メチャ旨いらしい

二十年前。。。
私がパティシエという職業を選んだのは
ただただ、ケーキが好きだったからだ
今まで、沢山のケーキを食べてきた
長くこの仕事を続けてきた甲斐があって
ここ何年かは、国内のスイーツコンテストの
審査員なんかもさせてもらえている
若い人たちの作るケーキもメチャメチャ旨い
あのケーキたちに点数をつけるのは
はっきり言って、難しい
本選に残っているパティシエは
みんな甲乙つけがたいほど美味しいケーキを作る
言うなれば。。。
彼らは選ばれた天才たちなのだ
どのケーキもまずいはずがなかった
それでも、評価をつけなくてはならない
だから私は、ときめきで勝敗を決めることにしている
スイーツでどれだけときめきを感じられるか。。。
根本的にはそこだ
技術も必要だが、どれほど調和のとれた味でも
見事な細工でも、ときめかなければそれまで
スイーツとはそういうものだ。。。
っと言うのが私の持論

「ようこそいらっしゃいませ。」

店に入ると、痩せ気味のウエイターが迎えてくれた
ケーキは持ち帰ることも
ここで食べてゆくことも出来るのだという
カフェスペースには、落ち着いた気取らない感じの
テーブルとイスが並べられていた
コーヒーのいい香りも漂っている

よし、決めた

私は、店内でケーキを頂くことにした
ウエイターが丁寧に席へと案内してくれる

うん。。。店の雰囲気は悪くない

いちごショートとコーヒーを注文する
あまり、凝ったケーキは作っていないらしい
メニューもそう多くはなかった
間もなく、ケーキが運ばれてきた
見た目は。。。オーソドックスなものだ
でも、どこか不思議な魅力がある

早く食べたい!!!

そんな感覚に襲われた
テーブルにケーキが置かれると
すぐさま一口、口に運ぶ
すると。。。

なんてことだ!こんなことって。。。

その衝撃に私は戸惑っていた

「君、ちょっといいかな。
 パティシエを。。。
 このケーキを焼いたパティシエを
 ここに呼んでもらえないだろうか。」

ウエイターにそう頼んだ
私の舌は、この味を覚えていた
この味を出せるのは、世の中がいくら広いと言っても
彼しかいない
こんな所で、この味に出会えるなんて。。。
しかも、あの頃の彼のケーキとは明らかに違う
違うんだ。。。


 ◎三嶽 涼◎

「涼さん、忙しいところすみません。
 お客様がパティシエを呼んで欲しいと
 おっしゃられていますが。。。」

村瀬さんが厨房に来て、そう言った
最近、ようやく軌道に乗り出したこの店
厨房は、ネコの手も借りたいようなありさま
けれど、お客様の意見を聞けるのは有難いことだ

「わかった。すぐ行くよ。」

僕は、そう答えた

客席に座っていたのは、見覚えのある顔
そう。。。
以前のコンテストで僕を酷評した審査員で
スイーツ界の大物。。。山崎 直人先生

あちゃ~。。。
また、酷評されるのかな

まぁ、仕方がない
今の僕に出来るのは、どうやったってこのレベル
もう、何とでも言ってくれ!!!

「山崎先生、お久しぶりです。
 よくおいでくださいました。」

「やっぱり君か。三嶽 涼。。。
 そうだと思ったよ。
 けれど、君は確か、交通事故にあって
 再起不能だと聞いたんだが
 あれは、デマだったか。」

「いえ、交通事故にあったのは本当です。
 大怪我をして、お菓子作りも諦めかけたんですけど
 みんなに支えられて、ようやくお店を持つことが出来ました。
 ただ。。。
 昔のように細かい作業は出来ません。
 味も変わってしまいました。
 正直、これが今の僕の精一杯なんです。
 それでも、こんな僕のケーキを喜んでくださる
 そんなお客様がいらっしゃる。
 それでなんとか、明日もケーキを焼こうと
 思えるようになったんです。
 今出来る精一杯の想いを込めて。。。」

「そうか、苦労したんだね。
 でもね、君は一つだけ大きな勘違いをしているよ。
 確かにこのケーキは、前に食べた君のケーキの味とは違う。
 だって、格段に美味しくなっているからな。」

「えっ?」

僕は一瞬、何を言われているのかよくわからなかった

「だからね、君のケーキは以前より
 美味しいって言っているんだよ。
 このケーキを食べるとね、心がときめくんだ。
 前にも言ったろ。
 スイーツは、ときめき勝負だって。」

「はぁ。。。どういうことでしょう。
 前より、形も悪いし、細かい細工もしてないし
 味だってかなり大雑把になってしまっている
 と思うのですが。。。」

「そう、それだよ。
 君は完璧になり過ぎていた。
 人の味覚なんて、それほど完璧なものじゃない。
 腕のいい料理人が作った料理より
 母親の手料理のほうが、ほっとしたり
 好きな人の焼いてくれたクッキーが
 宝物の味になることだってある。
 たとえ、それが焦げたクッキーだったとしてもだ。」

山崎先生が突然、こんなことを言ったので
思わず僕は、赤面してしまった

美鈴の焦げたクッキーの話。。。

知ってるわけじゃないよな
知るわけないか。。。

「それは、何となくわかりますが
 でも、家族ならともかく
 見も知らない僕が焼いているんですよ。」

「うん、そうさ。でもね。
 クリームもスポンジもどこか懐かしい手作り感に溢れている。
 それでいて、決して素人には出せないプロの職人の味だ。
 形だって、君が言うほど悪くない。
 こんなことを言うのはなんだが
 前に君が作ったケーキは、アートとしては
 一級品だったのかもしれない。
 けれどそれゆえに、どこから食べていいのか困ったくらいだ。
 このケーキは、思わず口に運びたくなる。
 そういう魅力を持った形をしているよ。
 そして、文句なく旨い。泣きたいほど、美味しいよ。
 事故は不運な事だったけれど。。。
 こと、お菓子作りに関してだけ言うのであれば
 君は、君を轢いた人に感謝すべきだ。
 こんなことを言うべきではないとわかっている。
 君は怒るかもしれないが。。。それでも。。。
 私は感謝しているよ。君を轢いてくれた人に。
 だって、私がこのケーキに出会えたのは
 その人のおかげってことだろ。
 よくぞ、轢いてくれましたって言いたいくらいだ。」

「よくぞ?」

「い、いや、すまない。
 君は、大変な思いをしたんだったね。
 ただ、それくらいこのケーキは
 美味しいってことだよ。」

いくらなんだって、轢いた人に感謝するって。。。
まぁ、山崎先生には、悪気はないのだろう
口は悪いけど、正直な人だ
それに、そんなこと言われなくても僕はもう
感謝しているんだ
この店が開けたのも村瀬さんのおかげ
ケーキが美味しくなった?のも村瀬さんのおかげ

なぁんだ。。。
みんな、村瀬さんのおかげだ

ちょっと変な気分だな
でも、それが真実

「それなら、あのウエイターにお礼を言って下さいますか?
 実は、彼が僕を轢いてくれた人なんです。」

僕はそう言って、村瀬さんを指差した

「えっ、そうなの?あのウエイターが?
 そっか。。。彼がケーキの恩人かぁ。」

ケーキの恩人?

「ぷっ」

僕は思わず、吹き出した
とても清々しい気分だった
今までの辛い時間が全て報われた気がした
人生、悪いことばかりじゃない
何が幸運かなんて、あとになってみないとわからないもんだ

僕はふと、村瀬さんの方を見た
僕たちの話を店の隅で聞いていた村瀬さんは
俯きながら泣いている
これで、村瀬さんの心の傷が、少しでも癒えてくれたらいいなぁ
そして。。。
僕は、明日もケーキを焼こうと思った
少しくらい形が悪くても、味が大雑把でも
ときめくケーキを焼いてやろう
美鈴が宇宙を味方につけて、洗濯物を干している間に

そのあと、みんなで笑いあえるといい
僕のケーキを囲んで、明日の話でもしながらさ
僕が諦めかけていた「右手の夢」は
形を変えながらもずっと成長してきたんだね
そして、ほら。。。
今こうして、不器用になってしまった僕の右手が
しっかりと握りしめているよ

もう、離したりするもんか。。。


 ◎山崎 直人◎

私は、とある雑誌社の依頼で
お勧めのケーキ店の紹介文を書くことになった
どの店を紹介するかは、もう決めていた
パソコンを立ち上げて、文章を打ち始める
でも。。。なんて書けばいいのだろうか
あの味をどうすれば、伝えられるのか
しばらく考えたが、思い浮かばない
そこで、ちょっとミステリアスな文章で仕上げてみることにした
読んだ人の興味を引くだけでいい
味の方は、食べてもらえばわかるのだ
そして、一度食べたら
食べてしまったのなら。。。
明日もまた、食べたくなる
あの店のケーキは、そういうケーキなのだから。。。


  ☆  ☆  ☆

『町はずれの小高い丘の上に
 「トゥモロウ」という名の小さなケーキ屋がある。
 オーナーは交通事故にあい、右手が少し不自由だ。
 だが、彼の焼くケーキの味は、ピカイチ!
 
 彼の奥さんは、笑顔の似合う可愛い人
 どうやら、宇宙が味方するほど魅力的な人らしい。
 そして、ウエイターは。。。
 ケーキ屋の店員とは思えないほど痩せているが
 生真面目で、正直な人。
 実は。。。この人こそ私の「ケーキの恩人」
 聞くところによると、ここのケーキの半分は
 この人のおかげで成り立っているそうだ。
 っで。。。結局のところ、何が言いたいのかといえば
 ここのケーキは旨い!!!
 その一言に尽きる。
 どうか一度、食べてみてほしい。
 私が今まで食べたどのケーキより
 美味しいことだけは間違いない。

 オーナーの言葉を借りれば
 ここのケーキは、オーナーの「右手の夢」なんだそうだ。
 「出来れば、明日の話をしながらお召し上がりください。」
 とのこと。
 オーナーの言葉もよくわからないが。。。
 とにかく、味だけは。。。
 この私が保証する!!!』

      山崎 直人
MB900038670.JPG               
               おしまい

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目隠し [詩]

どんなに素敵に笑っても
どんなに器用におどけても

時折、君は心の中で
声も出さずに
泣いている

そんなに頑張らなくていい

僕が何度、そう言ったって
君は笑顔を絶やさない
笑ったまんまで今日もまた
心の中で泣くんだね


素敵な笑顔のその奥で
君の心が流した涙は
誰にも知られることも無く
ただただ静かに溜まってゆく

ほっておいたら
いつの日か
君の心は
溺れ死ぬ

それがわかっているからさ

もうほってはおけないよ
ほっとくわけにはいかないさ

君が溺れるそのまえに
君の心が泣ける場所
僕の心に作ったよ
出来れば、ここへ来てほしい。。。


一人で全部
背負い込んで
それでも平気なふりをして
いつもいつも笑ってる
明るい君が
そこにいる

だけど僕は知ってるよ

ホントに君は不器用だって
ホントの君は泣き虫だって

絶対弱音を吐かない君を
ずっとずっと
見てきたからさ

僕が君の心ごと
その涙さえも受け止める
そんな器になれたらと
そんな器になりたいと。。。

それが僕の
一番の願い

笑っているのに
泣きたいときは
こっそりここへ来ればいい

僕の心の片隅の
君のためだけにある小さな居場所

ここなら
誰にも見つからないし
ここなら誰にも
見られない

ここでしばらく泣いたなら
ここでしばらく泣けたなら
君の心は少しだけ
軽くなるんだと信じたい

それもいやだと言うのなら
僕にも涙は見せたくないと
君がそんなふうに思うなら

君が泣いてる間はさ
僕は目隠ししてるから

ずっと。。。
目隠ししてるから
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