白い部屋 [エッセイ]

「行ってきたよ。。。」

友人からそんな電話があった。。。
その声は、充実感をともなったハリのある声だった

「被災地は、テレビで見たよりも
ずっとひどいことになっていたわ。
亡くなった人の多さにも驚いたし
大切な家族を無くした人もたくさんいたの。
精いっぱいのことをしてきたよ。
小さな小さなお手伝いだけど
何もしないよりはマシだから。。。」

友人は、GWに旅行会社が企画した
ボランティアツアーに参加してきたのだ

疲れて帰ってきたはずなのに
友人のテンションは高かった
このところずっと、落ち込んでいた友人
こんなにはっきりした
元気な声を聞いたのは久しぶりだった

それは、私にとっては
とっても嬉しいことなのだけれど

たしかにそうなんだろうけど

ちょっと複雑な気持ちになる。。。

去年、友人の娘さんは空を飛んだ
一瞬飛んで。。。
そのまま地面に落ちてった

彼女の体が地面に落ちた瞬間
彼女の魂は。。。空へ昇った

即死。。。自殺だった。

自分の命よりも大切な命を
友人は失ってしまった

目も当てられないほど
衰弱して

私は、友人も娘さんを追って
自ら死を選んだりしないかと
ずっと、ハラハラしていた

そんな時。。。この震災。。。

テレビで。。。
津波に流されてしまった娘を探す人を見たとき
友人は居ても立ってもいられなくなったらしい。。。

なので自ら、被災地へ行ったのだ
そこで。。。
自分の不幸より大きな不幸を
たくさん目にしてきたに違いない

家族を全部なくした人
そのうえ、家まで無くして

残っているのは自分の命一つだけ

そして、その人は言うんだ

「命があっただけでも。。。運が良かった。」って

友人は確かに。。。不幸だった
けれど。。。友人は比べたんだ

自分の不幸と被災者の方の不幸
それが友人を大きく変えたような気がする

自分より不幸な人たちを見つけて
落ち込むのをやめたか
落ち込めなくなったのか

とにかく元気に戻ってきた

それはいいことなんだよね。。。

人の不幸が友人の元気の素。。。か

世の中、切なく出来てるね。

それでも、友人が元気になってよかった
私は。。。そう思う。。。。

今日は、去年。。。
その友人を訪ねて行った時に書いた
エッセイを載せようと思う

友人が本当に。。。
憔悴しきったいたころの
ちょっと切ないエッセイ

お時間のある方は。。。
よろしくお付き合いくださいませ

pink.png



   『白い部屋』

六月に。。。
友人の娘さんが自殺をした
友人の落ち込みはひどくて。。。

でも、そばにはご主人がいて支えてくれている

しばらくは。。。
少し、離れて見守っていようと思った

  ○ ○ ○

あれから。。。
電話で会話をするくらいで
直接会うことはなかったけど

いつも。。。
彼女のことは気になっていた

今日。。。

久々に彼女の家を訪ねた
様子が気になって。。。

少しは、元気になってくれてるといいんだけど。。。

チャイムを鳴らす
玄関のドアが開く。。。

彼女が、亡霊みたいに立っていた。。。

時間は必ず。。。
彼女の味方をしてくれるって
そんな風に信じていた私

でも。。。どうやらそうじゃなかったらしい

時間は、彼女を追い詰めていっている
その表情から、尋常でないものを感じる

頭の中に
心の中に
悲しみがどんどんあふれだしていて
ほとんど、飽和状態なのだろう

私に何が出来る???

必死に考える
考えるけど思い浮かばない

命より大切なものを失った彼女に
代わるものなど贈れるはずもない

彼女の最愛の娘さん。。。
モコちゃん(仮名)に。。。
お線香をあげさせてもらった

部屋中に
お線香の煙が漂っている

必要以上に白い部屋。。。

もしかしたら、一日中ずっと。。。
モコちゃんにお線香をあげ続けているの?

「たまには、外へ出ない?
買い物に行こうよ
美味しいものでも食べてさ。。。
 
少しは、気晴らししないと
心が破裂しちゃうよ。」

危うく見える彼女の心
少しでも、楽にしてあげたい
気持ちばかりが焦ってゆくのだけど

でも結局。。。
こんなことしか言えない私


「悲しみで。。。
心が破裂してくれるなら
早く。。。
弾けてなくなってしまいたい。」

「……。」

彼女の絶望があふれ出て
一瞬、時が止まった気がした



「……なんてね。。。
 
本気にしないでよ。冗談だって。
でも、買い物はパスさせて
どうせ、行っても
必要のないものばかり買っちゃうのよ。」


そう言いながら彼女が部屋の隅を指差した
そこには、新品の服やら。。。
バックやら。。。
山のように積み重なっている


「あぁ。。。」

私は、言葉を失った


そこにある。。。服もパックも
彼女のものにしては、派手すぎる

そういう。。。ことなんだね

きっと、彼女も戦っている
このままじゃいけないと思ってる

だから、一人で。。。
街に出て。。。

買い物なんかにも挑戦して

そこで買ってきたものは

たぶん。。。
亡くなった娘さんの
着ることのない洋服と
使うことのないバック

実はさ。。。

「妻を外へ連れ出してほしい」。。。って
ご主人に頼まれたんだよ

ご主人も心配しているんだ
彼女のこと。。。

確かに、この白い部屋にこもっていたら
いい結果にはならない気がした

「まったく。。。
昔からあんたは、センスが悪すぎる
これじゃあ。。。モコちゃん。。。喜ばないよ
私が一緒に選んであげる
モコちゃんに似合いそうな服

だから、これから二人で一緒に買いに行こうよ
そうして。。。
ちゃんと仏壇に供えてあげよう

でも、その前に。。。
私、お腹が空いちゃったから
どっかで食事に付き合ってね。」


やっとの思いで、そう言った
理由なんて、どうでもいいんだ
ともかく、彼女を外へ連れていく

今日は、何がなんでも。。。

そんな私の気持ちを悟ったのか
彼女は、今日。。。
初めて顔をあげて、私を見た

そうして、力なくだけど。。。

にっこり笑って。。。こう言った

「ありがとう。」

勝気な彼女の
今にも消えそうな。。。
か細い声が切なくて

あふれそうな涙を必死にこらえた。。。


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コメント 6

sinon

お友達 何か・・思い立つことがあったのでしょうね。
きっとずっとこのままではいけないという
思い・・ 私もそう思います。

人の苦しみや痛みを肌で感じたお友達に
頭が下がります。
いいえ お友達の苦しみを被災者と比べることなど
できようもないほどなのに・・・
精いっぱいさが伝わりました。

「お母さん頑張ったよ」と
いつか胸を張って娘さんと再会できることと
思います*_ _)

当時のりこさんの思いも胸に刺さります。
辛かったでしょう・・

大切なお話をありがとうございましたm(_ _*)m
by sinon (2011-05-09 16:42) 

リンさん

悲しいですね。泣きそうになりました。
子供を亡くすって、想像しただけで胸が張裂けそうです。
私の友達も、白血病で子供を亡くしました。
しばらくして訪ねたときは、わりと元気で、元気だった子供の写真をふたりで見ました。
泣きそうでしたけど、彼女が泣かないのに、私が泣くのも変でしょう。
だから二人で「可愛いねえ」と写真を眺めて帰ってきました。
自殺とは、状況が違いますけどね。。。
切ないなあ。
でも、友達は元気になったんですね。
よかったです。
by リンさん (2011-05-09 19:21) 

haru

>人の不幸が友人の元気の素。。。か
>世の中、切なく出来てるね。

どうしようもないことなのですが、その現実に胸が痛みます。。。


by haru (2011-05-09 19:37) 

春待ち りこ

>sinonさん
そうですね。。。
何か、思うことがあったのでしょう。
友人の悲しみは、それはそれは深いもので
慰める言葉も見つからないほどでした。

何を言っても。。。
友人は自分を責め続けました。
どうして、助けてあげられなかったのか。。。と

それは、今も変わってないのかもしれません。

だけど、ボランティアに行ってきた友人は
新しい生きる意味を見つけたのかもしれませんね。

どんな理由であれ
少しでも元気を取り戻してくれたことが
嬉しいです。
天国の娘さんもきっと
ホッとしていることだと思います。

今は静かに、見守っていたいと思っています。
あまり、無理をしすぎないように
ちょっと気をつけてあげないといけないですけど。。。
by 春待ち りこ (2011-05-10 22:35) 

春待ち りこ

>リンさん
本当に、悲しいですよね。
同じ親として。。。
なんといっていいのかわからなくなります。

あの時。。。
友人には、悲しくても苦しくても寂しくても
とにかく生きていこうね。。。って言いました。
いっしょにね。。。歩いていこっ。。。って
私も一緒に歩くから。。。頑張って歩いていこっ。。。って
あれから、もうすぐ一年が経ちます。

今、友人はちゃんと
自分の足で自分の道を歩いていこうとしてる。
その強さに頭が下がります。

ただ。。。
あまり無理しすぎないといいんだけど
それだけが、少し心配です。
by 春待ち りこ (2011-05-10 22:49) 

春待ち りこ

>haruさん
友人を元気にしたのは
確かに。。。被災者の方々の不幸。。。
そんなふうに考えると
ちょっと、切ない現実ですよね。

だけど、それでも。。。
どんな理由であれ。。。
友人のあのハリのある声が聞けたのは嬉しい。

娘さんを亡くしているから
被災をして家族を亡くされた方の悲しみが
痛いほどわかる。。。
だから、とにかく助けに行きたかったのでしょう。

誰かを助けるためには
強くならなきゃいけません。
友人は、助けるために強くなって帰ってきたんだと
そう思うことにしました。
このまま、元気を温存してくれたらいいな。。。
心からそう願っています。(^^)v
by 春待ち りこ (2011-05-10 23:01) 

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