10秒間の夢 [エッセイ]

生まれた時から
個性的な心臓を彼は持っていた。。。

体育の授業は。。。
いつも見学

運動会の日は
お休み

そのうち、学校へも行けなくなって
入退院を繰り返すうち
やがて、家にも帰れなくなった

彼は。。。ずっと耐えていた
たぶん。。。小さい頃からずっと
耐え続けてきたんだと思う
普段は、弱音も吐かないで
よく笑う奴だった

どうして、そんなに明るくしていられるのか
不思議に思ったこともある
私は、彼は強い人なんだって
そんなふうに思っていたんだ

でも、あの日。。。
彼は、私に言った

お見舞いの花を抱えて
真っ白な彼の病室を訪ねた時のことだ。。。

「花も
 励ましの言葉も
 いらないよ
 
 もしも、僕が可哀そうだと思うなら
 本当に君がそう思ってくれるなら
 僕と代わってくれないか
 ずっとじゃなくていい
 50メートル走る間だけいいんだよ
 小学校の運動会の徒競争みたいにさ
 一度でいいから、思い切り走ってみたいよ
 
 たった。。。50メートルだよ
 たった。。。10秒だよ
 
 人生の中で。。。たった10秒
 懸命に走ることすら
 僕には。。。許されないなんて
 なんだか、不公平だと思わないか?
 
 だから、頼むよ
 ほんの10秒。。。
 僕と代わってくれないかな。。。」


花を抱えたまま。。。
黙り込んでしまった私

「ごめん、ごめん
 冗談だから、気にすんな。。。」

慌てた様子で。。。
そう言いながら、彼は笑った

いつもの笑顔だった

彼は笑ったけど
私は泣いた

何の力にもなれない自分が悔しかった
彼の願いも。。。叶えてはあげられない

しばらく泣き続けて。。。
かえって彼を困らせた
彼を困らせてしまうことを知っていながら
涙が止められなかった

どうしても、止まらなかった

だって、あの時の彼は
走るどころか。。。もう。。。
歩くことさえ。。。出来なくなっていたから

移動は。。。すべて、車椅子

本当に不公平だよ
代わってあげたいよ
走らせてあげたいよ

。。。それが、出来るものなら。。。


あの日。。。
家に帰っても。。。
ずっと、彼のことを考えていた

走りたかったんだ。。。

初めて知った彼の夢は
夢と呼ぶにはあまりに小さく
そして。。。切ない夢だった

夜、眠る前に。。。
私は、神様に祈った
いろいろ考えても
私の出来ることは。。。
祈ることくらいしかなかったから


たった10秒間の自由を。。。
どうか、彼にお与えください。。。


結局。。。私の願いは叶わなかった

たった10秒間の夢も果たせずに
彼は。。。逝った

不公平で苦しいことの多かった彼の人生は
わずか、17年で幕を閉じた

でも。。。
私はこう思うことにしている

彼は、命と引き換えに
永遠の自由を手に入れたんだって

今頃は。。。
きっと自由に
風を切って走りまくっているんだって

誰より早く
そして誰より。。。軽やかに

そうでも思わなけりゃ。。。
どうにも耐えられない

だって、彼は。。。いい奴だったんだ

ほんとにほんとに。。。
いい奴だったんだ
               
         
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今年も彼に会いに行った
それは、彼との約束だから

MB900445204 (1).JPG

桜を見ながら
彼の在りし日の姿を
思い出す。。。

それが、私の役目

桜吹雪の中
一年ぶりの。。。
彼との再会

MB900445202.JPGMB900228310.JPG

今年もあえたね

桜の向こうの彼は
黙ったままだったけれど

17歳の笑顔のままで
私を迎えてくれる

う~ん。。。

あの頃は年上だった彼

今は。。。親子のよう。。。
もちろん、私が母で彼は。。。息子 トホホ(ノ_-;)

歳とらないってずるいなぁ

みっともなくなって。。。
しわが増えて。。。
髪も白いものが目立つようになり。。。
物覚えが悪くなり
いつも体のどこかが痛くて

歳をとるって。。。
切ないことだよね

それでも。。。ね

彼のおじさんになった姿を
見てみたかったと思うんだ

仕方のないことだとわかっていても
それでも。。。ね

彼は、あの日。。。風になって
今もこの大地を全力疾走してるって

そんなふうに思いたいな
そんなふうに思わなきゃ
やりきれないな


「苦しいことの多い人生だけど
それでも生まれてきてよかったと思うよ」

昔。。。
彼がそんなことを言っていたのを
不意に思い出した

不幸ばかりの人生ではなかったんだよね
ちゃんと、幸せだって
たくさんたくさんあったよね

そう信じてもいいよね。。。

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コメント 8

haru

りこさん、ステキなエッセイですね。
子供の頃の自分とダブり、胸が熱くなりました。
長い入院生活と体育の授業見学。。。
でも、私は生きている。結婚もして、子供も出来て。。。
こうしてりこさんのblogにもお邪魔できる。
ありがたいことだと思いながらも、
あの時、死んでいたら良かったなんて思ったり。
矛盾する思いとの戦いです。

by haru (2012-04-16 20:34) 

かよ湖

50mの5m前でゴールテープを持って待っている りこさん
ストップウォッチを9秒5で止める りこさん
そんな校庭での1シーンが目に見えるようです。
だって、50mを10秒で走っちゃったら、また車椅子の生活に戻っちゃうでしょ?
夢を実現するまでは「10秒間の夢」が永遠に続く。そう信じたいです。

素敵なエッセイを・・・ありがとうございます。
by かよ湖 (2012-04-17 00:25) 

海野久実

今年も彼との約束を果たしたわけですね。

ネット上では彼の事が書かれた文章がずっと彼を思い出し続けているんですよね。
by 海野久実 (2012-04-17 00:32) 

リンさん

スランプ脱出ですか?
とても素敵なエッセイです。
10秒だけ代わってほしい…そんな望み悲しいですね。
春になると、彼を思い出すのですね。
去年も、彼のことを書いていましたよね。
彼の時間は止まってしまったけど、りこさんは彼の分まで長生きしないとね。
by リンさん (2012-04-17 23:32) 

春待ち りこ

>haruさん
生きることって。。。
なかなか思う通りにはいかなくて
歯痒かったり、悔しかったり
自分の底の浅さを思い知らされて
落ち込んだり。。。
そんな日もあるけれど
どれもこれも生きているからこそ!!!

そう思うようにしています。

生きる価値とか意味とか
そんな大層なものは持っていないけれど
私は生きて。。。
みっともなくても生きて。。。
あがきまくって。。。
そこで知り得たいろんな想いを抱えて
先に逝ってしまった友人や恩人の所へ逝こうかと。
まぁ。。。泥だらけの土産話になるでしょうけど
天国ってのは。。。幸せばかりで退屈でしょうから
喜ばれるかもしれません。。。なぁんて。(。 ゝ艸・)クスクス

haruさんのおっしゃるとおり。。。
ここでこうして。。。皆さんに出会えたこと
これも。。。生きてるからこそ♪ですね。
命に感謝。。。生かされていることにも感謝。。。です。
haruさんが生きていてくれたことにも
もちろん。。。大大大感謝ですよ!!!
by 春待ち りこ (2012-04-19 09:54) 

春待ち りこ

>かよ湖さん
そうですね。。。
終わらない10秒。。。
あの日。。。彼が逝ってしまった日。。。
彼はその10秒を手に入れたのだと
思いたいですね。

あの頃、ずいぶん大人に見えた彼が
実は、今の娘と同い年だったことに
今更ながら。。。驚いています。
大人?
とんでもないですね。
たった17歳で夢も希望も制限されて
命の期限も決められて
怖かったろうと。。。辛かっただろうと。。。
何より、悔しかっただろうと。。。

それでも。。。生まれてきてよかったと言った彼
もちろん、前向きな人ではあったけれど
そこにはきっと。。。
自分自身への慰めや
残してゆく母への気遣い
そんな想いも含まれていたんじゃないのか
桜を眺めながら、そんなふうに思ったりしていました。
いい奴ほど先に逝く。。。
そんな気がしてなりません。
あっ。。。だから、私。。。まだ生きてるのかも。。。(汗)

by 春待ち りこ (2012-04-19 10:06) 

春待ち りこ

>海野久実さん
そうですね。。。
また、この季節を迎えました。

今年もあえましたよ。。。

彼のことは。。。
多くの人に知ってほしいと思っているんですよね。。。
彼は、何にもなくなるのが怖いと言っていました。。。
だから、生きていたこと。。。
それだけでも思い出してほしいと頼まれたんです。

だから、こんなことを考えました。。。
ネットに載せた彼の思い出話が
もしも、誰かの心の中にちょっとでも残って
その人の心の中に。。。彼の居場所が少しでも出来たら
私がいなくなったあとも
まだ。。。彼はこの世のどこかで。。。
誰かの心の隅っこで。。。存在し続けていけるかも。。。なぁんて

ただ、誰かの心に彼を残すほどの
文章力が。。。私には足りません。。。(汗)
。。。それでも。。。
いつか、すっごいの書くぞ!!!

えっ???
いつかと。。。今度は。。。
来たためしがないって。。。今、誰か言いました???(。 ゝ艸・)クスクス

by 春待ち りこ (2012-04-19 10:27) 

春待ち りこ

>リンさん
残念ながら。。。
まだ、スランプ中ではあるんですが
これだけは、書きたくて。。。
この季節限定エッセイなので。(笑)

みなさんのブログにも
お邪魔させていただいてはいるんですが
コメント。。。すらうまく書けない。。。
ちょっとヘビィなスランプですね。。。

たまにあるんですよね。。。こういう時。。。

毎年。。。彼とは歳が離れていきます。。。
彼の分まで。。。というより
彼の何倍も生きちゃって(汗)
この季節になると。。。思い出の扉が開きます。。。
その扉の向こうに彼がいます。。。
17歳のまま。。。ピチピチ。。。
やっぱ。。。ずるくない?アセアセ(; ̄ー ̄)
by 春待ち りこ (2012-04-19 10:39) 

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