雪うさぎ~第三章~ [ちょっと長めの物語]

<翔太>

春になり、雪は時々、
何かを探すように辺りを見回しては、ため息をついた。
そんな雪を見て、翔太は初めて、
雪が赤い目の理由を知らない事に気付いた。

すぐに、教えてあげなければ・・・と翔太は思った。
冬を待てば、また道が見えるようになって
うさぎの里へ帰る事が出来る。
それを知れば、雪は元気になるだろう。
でもそれは、冬がくれば雪との別れがやって来ると言う事だった。
雪と離れたくはなかった。
いっそ雪と一緒にうさぎの里へ行けたら、どんなにいいだろう。
しかし、翔太もここを離れられない理由があった。

翔太には、病気の母がいた。
母を一人おいて、うさぎの里へ行く事は出来ない。

でも。。。このままでいいはずがないよな。

翔太は、心を決めた。

「雪ちゃん。話があるんだけど・・・。」

ついに、雪に切り出した。
    
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<雪>

「私も翔太さんに話があるの。」
 
雪はこの数日、ずっと考えていることがあった。
うさぎの里に帰れなくなった今、頼りになるのは翔太しかいなかった。
何より、雪は翔太がとても好きになっていた。
人間の世界には、結婚という制度があるらしい。
うさぎの里では、好きになればその日からただ一緒にくらせばよかったが、
ここでは手続きが必要だという。

それならば、翔太と結婚できないだろうか。
うさぎの里へ帰る道はゆっくり探していけばいい。
それが、雪の結論だった。
もちろん、翔太さえよければの話だが。


s-0015.png

<翔太>
「翔太さん。私と結婚して頂けませんか?」

雪の突然のプロポーズに、翔太は面食らった。
赤い目の理由を教えようとしていた翔太だったが、
雪の言葉ですべてが吹っ飛んだ。

「もちろん、OKです。」

思わず、そう答えた。
そして、雪と離れたくないという気持ちが、
翔太の口を塞いでしまった。

雪との結婚生活は楽しかった。
例え、その幸せに罪悪感が張り付いていたとしても、
翔太は少しでも長く雪と一緒に暮せる事を祈った。
だから、雪の少ない地方への転勤が決った時、正直、ほっとした。

それでも、雪は降ってしまった。
翔太は、雪との別れを覚悟した。
でも、雪は帰らなかった。生まれたばかりの娘と3人で、
翔太は家族というものを少しずつ築き上げていった。

それから、3年程経った頃、翔太の母が亡くなった。

その時、翔太は決心した。
もし、雪がうさぎの里へ帰りたいというのなら、
自分が向こうに住もう。

家族が一緒に暮らせるならば、
どこに居ても幸せになれる。

卯龍じぃちゃんのように・・・。
    
s-0015.png

<雪>
雪は、自分が元うさぎであることを翔太に隠し続けた。
不安定な幸せを守りながら、凛という可愛い娘を授かった。
凛が生まれて、初めての冬、この辺りでは珍しく雪が降った。
凛をあやしなから、雪は久しぶりの白い雪を見つめた。
そこで見つけたものは、懐かしい故郷への帰り道だった。

そうか。そういう事か。

その時、すべてを悟った。
雪は赤い目の理由を知った。
冬になり、雪が降る度に、雪の目は赤くなった。
翔太には、雪アレルギーだという事にした。
何の疑いも持たずに、彼は信じてくれた。
嘘をつく事はとても辛かったが、真実を話すのは怖かった。

雪はこの幸せを手放したくは無かった。

もう少し凛が大きくなったら、一度里帰りをしようと雪は思っていた。
父との約束を破るわけにはいかない。
でも、父の顔を見たら、すぐに人間の世界に戻るつもりでいた。
ここには、甘くて美味しいあんみつがある。
翔太と初めて出会った日の、大切な大切な思い出の味。

それは雪にとって、決して失いたくは無い「初恋の味」だった。
image92.gif 
                       
                               つづく。。。

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コメント 4

haru

二人の心の葛藤が見えてくるようです。優しい嘘ってありますよね。

この後にどんな展開が待っているのでしょうか?
みんなが幸せになるといいのですが、卯龍じいちゃんの生き方から
翔太はなにを学んだのか。。。
そのあたりがキーワードになるのかなあ~!
なんて勝手に想像を膨らませています。
第四章、楽しみに待っていますね。
by haru (2013-01-22 11:50) 

リンさん

1,2,3と続けて読みました。
可愛くて素敵なお話ですね。
人間になりたいと思ったらなれちゃうところがいいですね。
そして恋をして結婚をして…続きが気になります。
by リンさん (2013-01-22 19:23) 

春待ち りこ

>haruさん
隠し事があるって
後ろめたくて。。。なんだか気持ちが悪いですよね。
でも、それでも。。。
人間なら、いいやうさぎでも。。。
一つや二つの隠し事はあるものです。
きっと誰にも心当たりがあるのでは。。。

かくして。。。物語はいよいよ。。。最終章へ
ちょっとした仕掛けを考えて
この企画をたてました。。。
うまくいってたらいいんだけど。。。

自分としては
本当に楽しんで書きました。
読んでくださって、ありがとっ♪
by 春待ち りこ (2013-01-22 21:34) 

春待ち りこ

>リンさん
続けて読んでくださったんですか?
ありがとうございます。
長くてスミマセン。。。
残すはあと、最終章だけですが。。。

実は。。。

いやいや。。。これは
後でのお楽しみ。。。ということで。。。なぁんて( *´pq`)クスッ
by 春待ち りこ (2013-01-22 21:37) 

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