雪うさぎ~第二章~<雪のお話> [ちょっと長めの物語]

今年も、雪祭りの日がやってきた。

みんな、朝から祭りの準備に追われている。
雪は、祭りの準備を少しだけ抜け出して、里のはずれに来ていた。
この場所に来るのが、雪は好きだった。
この向こうに人間の世界がある。そう思うとたまらなくわくわくする。

雪の人間好きは、里のみんなが知っている。
雪はいずれ、人間の姿になると誰もが思っていた。
このうさぎの里では、よくそういう事がおこる。
もし人間の姿になれたら、
絶対、人間の世界を見に行こうと雪は考えていた。
でも、その日がいつになるのかは、雪自身にもわからなかった。

家に帰ると、父がお祭り用の人参を洗っていた。

「おとうさん、ただいま。」

そう声をかけると、父が振り向く。

「雪、おまえ・・・。とうとう・・・。」

父の驚いた様子をみて、
雪は初めて自分が人間の姿に変わっている事に気がついた。

やった!!!これで、人間の世界を見に行けるわ。

すぐにでも出発したい気分だったが、今日は雪祭りだ。
大相撲大会がある。雪は、相撲が強かった。
里では、「雪うさぎ」という四股名(しこな)を貰っていた。
うさぎの意味を持つ字が入る四股名(しこな)は、滅多な事では貰えない。
昔、卯龍(うりゅう)という伝説の力士がいたらしいが、
それ以降は雪が初めてだった。
大相撲大会には出場したかった。
出発を明日に延ばす事にした。

その日の大相撲大会で、雪はまたもや優勝した。
人間の姿に変わっても、雪の強さは変わらなかったらしい。
雪祭りは、明け方近くまで続いた。
雪は、思い切り祭りを楽しんだ。
    
  ○  ○  ○

「おとうさん、しばらく、人間の世界に行ってきます。」

次の日、雪は父にそう言った。

「お前のことじゃ、止めてもきかんじゃろ。
 ただ、一つだけ約束してくれんか。
 必ず帰ってくると・・・。」

父は、もう諦めているといった表情だ。

「もちろん、必ず帰ってきます。」

雪はこのうさぎの里が好きだった。
仲間も沢山いる。
暫く人間の世界を見学したら、帰ってくるつもりでいた。

「気をつけていけよ、雪うさぎ」

気のせいか、父が少し小さくみえた。

雪が出発したすぐ後、雪の家に長老がやって来る。

「雪うさぎ、もう行ってしまったのか。
 雪が降っている間しか、帰り道が見えんことを
 伝えたかったんじゃが・・・」
   
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その頃、雪はもう人間の世界にいた。
何もかもが美しい。
すべてがきらきら光って見える。
ショーウィンドウに並ぶ可愛らしいアクセサリー。

どこからか流れてくる美味しそうな匂い。

素敵、素敵、素敵。

雪は、心の中でそう繰り返して叫んでいた。
やがて、夜がやって来た。
暗くなるどころかあちらこちらに灯りがともり、
かえって眩しくなったように思える。

まるで、夢の中にいるみたい。

きらきらと光るネオンの中を雪は歩いた。
ひとつだけ、困った事があった。
人間の世界では、何をするにもお金というものが必要らしい。
雪のお腹がくぅーと鳴る。

見知らぬ男が話しかけてきた。

「あの、今夜は冷えますね。
 よろしかったらあんみつでも食べに行きませんか。」

その人は、とても優しい感じがした。
でも、あんみつって何だろう。
今まで食べた事どころか、聞いた事も無い。

「あんみつって何ですか?」

雪は思わず、聞いてしまった。
もしかしたら、可笑しな質問だったかもしれない。
しかし、その人は丁寧に答えてくれた。
そして、一緒にあんみつを食べに行く事になった。
不思議と不安は無い。

もしも何かあった時は、投げ飛ばせばいい。。。

そう、雪は思っていた。
その人はどう見ても強そうなタイプではなかったし
それにまだ、うさぎの里へは帰りたくなかった。
何より雪には、他に行くあてもなかったから。

その人は、翔太という名前だった。
そして、初めて食べたあんみつは、この世のものとは思えないほど美味しかった。

お母さんの手作り人参スティックよりも
美味しいものを食べたのは、生まれて初めて!!!

人間の世界に来てよかったと雪は心から思った。

翔太は、雪の知らない人間の世界の話を色々教えてくれた。
あんみつを頬張りながら話を聞いていると
不思議なくらい幸せな気分になった。
次の日も、その次の日も、
翔太は雪を色々なところへ案内してくれた。
いつの間にか、雪は翔太に恋をしていた。

雪にとって、初恋だった。

うさぎの里へ戻る日を一日延ばしにしているうちに、季節はとうとう春になった。
里へ帰る道が見えなくなった事に気が付いたのは、桜の花が咲く頃だ。
毎日が楽しすぎて、すっかり帰ることを忘れていた雪も、
さすがに父との約束が気になり始めた。
きっとすごく心配している事だろう。

一度帰って、また戻ってこよう・・・。

そう思って雪は、うさぎの里への帰り道を探した。
しかし、帰り道は見つからなかった。

なぜ?この間まであんなにはっきりと見えていたのに・・・。

雪は、その時まだ知らなかった。
雪が止んでしまうとその道は見えなくなってしまう事を・・・。

つづく。。。
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コメント 2

haru

だんだん確信へと迫ってきましたね。
雪と翔太の出会い。。。
もしも何かあった時は、投げ飛ばせばいい。。。
あはは、さすがに四股名をもらっただけありますね。

あ、帰り道が見えなくなってしまったところで。。。つづく(゜゜)~ですか(笑)
りこさんやるなぁ~!は~い!まってますよー!
by haru (2013-01-21 18:08) 

春待ち りこ

>haruさん
お付き合いいただいて。。。
本当にありがとうございます。
自分の方が強い!!!
これはかなり強みですよね。(笑)

いよいよ物語も後半に入ります。。。
もう少しだけ、お付き合いくださいね。
いつも、ありがとう。。。
by 春待ち りこ (2013-01-22 07:00) 

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