しらすごはんと筑前煮 [小さなお話]

今年もお盆がやってきた
お盆がくるとママはとても忙しそうだ
お盆の飾り付けをして。。。
お供え物をして。。。
暗くなった頃、迎え火をたいて
お線香をあげて
お墓参りをして
ずっとずっとおうちのお仕事をしている

忙しくて大変だなって思う

ゆかのおばあちゃんは
ゆかが5歳の時、死んじゃった
悲しくて仕方がなかった
でも、お盆の間は
おばあちゃんはおうちに帰ってくるんだって
目には見えなくても
ゆかのそばにいるんだって

ママが教えてくれた
おばあちゃんが帰ってくるから
ママは、あんなに頑張って
お盆の支度をしているんだろう
ママは、おばあちゃんが大好きだったから。。。

おばあちゃん、聞こえる?
ゆかね。。。
もう小学生なんだよ
おばあちゃん。。。ここにいるんだよね
おかえりなさい。。。おかえりなさい

G004.gif
お盆のときは、毎日
おばあちゃんの好きだったおかずがならぶ

しらすごはんと筑前煮
けんちん汁も必ず出てくる

暑い夏。。。
煮物とか汁物とか
汗をいっぱいかきながら
ママは台所に立っている

おばあちゃんのためなら
どんなに暑くても我慢できるんだね

すごいなぁ。。。
ゆかだったら、絶対ダメ
でもいつか大人になったら
ママみたいに優しくなれるかな
そんなふうになりたいなぁ。。。

お盆が終わる。。。
送り火をたく

これでお別れだね
また、来年。。。

同級生の家では
送り火は夕方にたく。。。
家族みんなで
死んだ人の魂を送るんだっていう子が多いけど
うちを違う

朝いちばん。。。
まだ涼しいうちに
おばあちゃんを送り出す

「そのほうが、おばあちゃんが帰る時
涼しくって楽でしょ。。。」

って、ママが言ってた
帰り道の心配までするなんて
おばあちゃんのこと本当に
大切に思っているんだよね

すごいなぁ。。。
ママは、優しくて
とっても家族思い
きっとおばあちゃんも喜んでくれてるね

ばいばい。。。おばあちゃん
また、来年ね。。。

朝の送り火。。。
お盆は今日で。。。おしまい。。。


touka.png

「ただいま」

今年も。。。
聞きたくて聞こえるわけじゃない声が
私の耳元で響く

私はひたすら。。。聞こえないふり

ここで反応しちゃいけない
少なくとも、私が見えることを
お義母さんだけには気付れちゃいけない

もし、わかってしまったら

どれほど小言を言われるか。。。
想像しただけで恐ろしい。。。

くわばら くわばら

MB900355075.JPG

子供の頃から、私には霊が見える
でも、見えると言っても誰も信じてくれなかったし
見えることで得をしたこともない
っというより。。。
うそつき呼ばわりされたり
気味悪がられたり
悪いことばかりだ

なので。。。

幼い頃。。。
私は、見えることは誰にも言わないと誓った

霊を見ても
何の反応もしないようにして
霊が何を言ってようが
完全無視を貫いた

霊の方も、私が見えることがわかると
私の周りに群がってきて
あれをしてほしいとか
これをつたえてほしいとか
頼みごとばかりしてきた
かなり面倒くさい

見えないことにする。。。

それは、生きてる人間と上手くやってくために
そして、死んだ人間に煩わされないために

幼い私が選んだ最善の方法だった

それからは、人と同じように
普通に人生を歩んできたつもりだ

結婚をして。。。
娘のゆかが生まれた
同居していたお姑さんとは。。。

実は、あまりうまくいかなかった

ささいなことで喧嘩をしたり
いがみ合ったり。。。
私はお義母さんが嫌いだったし
お義母さんのほうも私が
嫌いだということもわかっていた

だがそれは。。。
親と同居をしている大半の家庭と同じ
私だけが取り立てて不幸というわけではない

夫は優しかったし
娘もすくすくと育っている
そんな事を考えれば。。。
むしろ、私は幸せなのかもしれない

けれど。。。本音を言うと。。。
同居は辛かった

そして、お義母さんが亡くなった
その死はあまりに突然で
だけど、私は
いけないと思いながらも心のどこかで
同居の終りを喜んでしまったかもしれない
家族を亡くした喪失感と悲しみは、確かにあった
でも、それ以上に。。。
同居というのは私には重荷だったのだ

これでもう。。。
お義母さんと暮らさなくてすむ。。。

その安堵感を
誰にも言えずに
私は私の心の中で
たった一人で噛みしめた

MB900429021.JPG

ところが。。。やがて
私のささやかな不幸が始まった

その不幸というのは
お義母さんが亡くなってからの最初のお盆
新盆と共にやってきた

「ただいま」

懐かしい声がする
見ると。。。
なんと、お義母さんが立っている

あっ。。。

思わずこちらも声をあげそうになったが
必死でこらえた

そっか。。。お盆って
本当に死んだ人が戻ってくるんだ。。。

私はその時、初めて悟った
年に4日間だけなので
ささやかではあるが
生きてるかぎり、毎年必ず。。。
お義母さんとまた
同居しなくてはならないことを

そして、お義母さんは、お供えの野菜を見ながら
こんなことを言い始める。。。

「私、生野菜なんて食べたくないのよ
せっかくたまに戻ってきたんだから

しらすごはんと筑前煮
それに、けんちん汁が食べたいわ。。。」

えっ。。。この暑い中。。。煮物???

それにしても、相変わらずだわ
死んでも少しも変わってないなぁ。。。
まず、お供え物のダメだしなんて

そう思ったら、可笑しくなった
なんだか不思議と
嬉しい気分になっている自分がいる

あれ。。。おかしいな。。。

あれほど嫌だったお義母さんの小言が
嬉しくって仕方がないなんて
いったい、どうしてなんだろう。。。

その日の夕飯の献立

しらすごはんと筑前煮
それにもちろんけんちん汁をつけた

少しずつとりわけて。。。
お義母さんへの影膳

生きていた時の自分の席に座っていたお義母さんが
にっこりほほ笑むのを見た

私もなんだか、無性に嬉しくなった

お義母さんと暮らした10年間
喧嘩ばかりしたけれど
助けてもらったこともある

何より。。。
同じ季節をいくつも一つの家族として過ごしたことで
好きとか嫌いとか
そういう感情よりもっと深いところで
もしかしたら生まれていたのかもしれない
家族の絆。。。というものが

とはいえ。。。嫌いなものは嫌い
苦手なものは苦手

私がお義母さんを嫌いということに
何の変りもない

お盆中に発せられた
お義母さんの数々の他の小言には
完全無視を貫いた

そして、お盆の最終日。。。
本当は、陽の落ちるギリギリまで
ゆっくりしていたいであろうお義母さんを。。。
朝の送り火で見送った

「今のうちなら。。。涼しいからね
気をつけて帰ってね。」

娘と一緒に送り火を見つめながら
そう呟いた

私は嘘つきだ。。。あははっ

でも、ご飯くらいは
お義母さんの好きなものを作ってあげようと思った
それくらいはしたかった

仮にも。。。
家族だったのだから

MB900355075.JPG

以来。。。

我が家のお盆のメニューは

しらすごはんと筑前煮
もちろん、けんちん汁つき。。。

送り火は。。。早朝。。。に決定した

そして、今年もお盆はやってきて
あっという間に終わってゆく

朝の送り火。。。
お義母さんは帰り際に
こんなことを言った

「もう少し、ゆっくりさせてよ。」

もちろん、完全無視だ!!!

あの世へ帰ってゆく
お義母さんの後姿を
朝日の中で眺める

するとふと、お義母さんが振り返って
手を振りながらこう叫んだ

「しらすごはんと筑前煮
 けんちん汁も美味しかったわ
 ごちそうさま。。。
 あんた、ほんとは見えてるんでしょ。
 まったく、うちの嫁は。。。
 嘘が下手で困るね。
 また、来年も来るからね。
 覚悟しておき!!!」

お義母さん。。。わかってたの?

お義母さんはニヤリと笑ってから
また、前を向き直し
そうして、スッと消えて行った

本当にびっくりした
さすが、私のお姑さんだ

仕方がない。。。
来年のお盆の送り火は。。。
夕方にしてあげよう。。。

そうしたら、しらすごはんと筑前煮
それに、けんちん汁を
もう一杯ずつ余計に食べて帰れるものね

今の私が、嫁として。。。
お義母さんに出来るのは
それくらい。。。

私はお盆が嫌いだ
だって。。。お義母さんが帰ってくるから

そして。。。暑い中
煮物をしなくちゃならないから

だけどなんだか
来年のお盆が。。。ちょっとだけ。。。
待ち遠しい

どうせ、ばれちゃってるなら
来年は。。。

私も。。。おかえりって。。。
言ってあげようかな。。。
なんて思ったりして

    おしまい

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コメント 14

yu-papa

見えてしまう霊は、残念ながらも成仏していません。
早めに何か手を打たれることを、お勧めします。

私もよく霊を見ますが、会話をしたことはありません。
by yu-papa (2013-08-16 13:35) 

春待ち りこ

>yu-papa さん
コメント、ありがとうございます。
そうなんですか。。。見えてしまう霊は成仏していないんですね。
知りませんでした。。。

このお話は創作なので
私自身は霊を見たことはないのですが
とてもとてもおじぃちゃん子だったので
おじぃちゃんが亡くなってから
幽霊でもいいからもう一度会いたいとずっと思っていました
でも、一度も会えたことはなくて。。。

それって、おじぃちゃんが
ちゃんと成仏しているからだって
思うことにします。。。

見えてしまう霊=成仏していない霊
この設定で、もう一つお話が出来そう。。。
貴重な情報をありがとうございました。m(_ _)m
by 春待ち りこ (2013-08-19 00:27) 

haru

りこさん、おかえりなさい。
ん?まさかりこさんの霊ではないですよね。
なんて事を言うのだ。。。ポカッ (._+ )☆\(-.-メ) ォィォィ

ちょっと皮肉交じりにでも、正直に思いを小説にしている。
さすがりこさんだ。間違いない。
そうなんだ。成仏している霊はでてこないんだ。私も父なら幽霊でもいいから
会いたいと思っていました。七回忌が済むまではよく夢に出てきてくれて、
私はお茶と羊羹をだしたりして、まずいと言うからせっかっく出したものに
文句つけないでよとか笑って話していたのに。
すっかり、私を忘れたのか夢にも出てこなくなっちゃいました。
あの世でも、認知症ってことがあるのでしょうかね。?(゚_。)?(。_゚)?

あらら、りこさんと久しぶりなのになにバカなことを書いているのか。
やっぱり、8月ですね。(笑)

by haru (2013-08-19 19:32) 

リンさん

りこさん、お帰りなさい。
この話、親と同居している私にとっては他人事ではありません。
私、霊が見えなくて本当によかった^^
死んでからも出てこられたら絶対にイヤ!!
何だかんだで、このお嫁さんは優しいですね。
私だったら、おはぎあげておしまい(笑)

面白かったです。
またりこさんのお話読めるのね。うれしい^^
by リンさん (2013-08-20 18:53) 

春待ち りこ

>haruさん
ただいまです。。。
と言っても、なかなかパソコンが自由にならない今日この頃。。。
娘にこのパソコンを譲って、新しいの買おうかな(笑)

霊の世界での認知症。。。
ないと思いたいですけど
もしもあったら。。。と考えると
また、新しいお話が出来そうですね♪
なぁんて。。。

姿が見えなくてもね
ちゃんとそこにいて、見守ってくれていると思いますよ
haruさんのお父様。。。
だって、私のおじぃちゃんもそうだって
私、信じてるんですよね。。。というか、確信してます!!!

それにしても8月の暑さには、私もやられっぱなしです
体温が上がったり、下がったり
熱中症には、気を付けないといけないですね
haruさんもご自愛くださいませ
by 春待ち りこ (2013-08-22 23:37) 

春待ち りこ

>リンさん
ただいまです。。。と何度も言いながら
途切れとぎれの更新ですみません。。。(汗)

私も同居は、結構大変だったので
ついついこんな話を書いてしまいました
実は。。。
霊が見えなくてよかった。。。と心から思っています(笑)
今だから、なんとなく優しいお話に出来ましたが
以前だったら、きっとホラーになってたんじゃないかな。。。なぁんて

それにしても、暑い夏ですね
暑さで脳が溶け気味で
なかなか新しい話を書く気力が出ません。。。
私の場合、暑さのせいではないかもしれませんが(汗)

くれぐれもお身体には気をつけてくださいませ
私もマイペースで。。。いきます!!!o(^▽^)o
by 春待ち りこ (2013-08-22 23:46) 

履歴書の職歴

とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!
by 履歴書の職歴 (2013-08-31 11:41) 

もぐら

遅くなりました!
りこさん おかえりなさい。
今年の夏は(も?)暑いですね。
私はもうグダグダです。

私は同居も子育てもしたことありませんが
だからなのか「家族ってなんだろう?」って思うことがあります。
だからりこさんがこういう優しいお話が書けるのは
やっぱり家族がいるからなんだろうなと思います。

ゆっくり更新でも、いつでも待ってます。
マイペースでがんばりましょうね~。
by もぐら (2013-09-01 12:39) 

海野久実

読ませますねー
最初はエッセイかなと思っていました。
そして、創作なら「朝早くの送り火」になにかちょっとした裏の理由があるのかなと思っていたんですが。
なるほどねー
続きは、これはひょっとしてホラー作品に発展するのかと身構えて読んでいったのですが、ほのぼのとした結末で読後感がとてもよかったですね。

by 海野久実 (2013-09-01 13:54) 

かよ湖

りこさん、ご無沙汰しています。
りこさんの物語は家族愛に溢れていて、私の憧れです。
だって私だったら、お盆に義母さんがやってきたら、旅行に行っちゃうもん!旅行から帰ってきて、即、送り火です。(笑)

9月になりました。「暑さのせいで書けない」と言い訳にしていたのですが、そろそろ言い訳が出来なくなってきた私です。頑張らないと!とは、思っています。が、お互いに体調もあるし・・・マイペースでね。
by かよ湖 (2013-09-01 23:10) 

春待ち りこ

>履歴書の職歴 さん
お読みいただいて、ありがとうございます。
励みになります。
ぜひ、またお越しくださいませ。
心よりお待ち申し上げております♪

by 春待ち りこ (2013-09-08 12:34) 

春待ち りこ

>もぐらさん
お返事、遅くなりました。スミマセン。。。
なかなか、パソコンが。。。戻ってこない今日この頃。。。(汗)
やっぱり、娘にパソコンを買ってあげるしかないのか???

家族。。。
意識してこういうものだと思ったことはないんですけど
ただ。。。運命共同体。。。だなぁと漠然と思うことはあります。
私は、決していい嫁ではなく、仲もあまり……(汗)
私にとって、姑はいつも。。。心の重荷ではありましたが
娘にとっては、かけがえのないおばぁちゃまで。。。
そんな歪な形でも、家族となればそれなりの歴史があって
ただ、好き嫌いという感情だけでは割り切れない微妙な思いも生まれて
作品を書く上で。。。影響している部分も確かにあると思います。

っが。。。
実際、私はこれほど優しくないので
夏に煮物はしたくありません!!!(笑)
まだまだ、スローペースですが。。。
のんびりお付き合いくだされば、幸いです。(。v_v。)ペコ

by 春待ち りこ (2013-09-08 12:41) 

春待ち りこ

> 海野久実 さん
お返事、遅くなりました!!!
すみません。
ホラー。。。夏ですもんね。
そうですよね。この季節になると、書きたいなぁと思うんですけど
怖くならないんですよね。(汗)
なので、ちょっとほのぼの路線でいきました。
読んでいただけて嬉しいです♪
海野さんは、最近快調ですね。
いろいろ楽しませていただいてます。ありがとうございます。
私は夏の暑さにかまけて。。。
努力を放棄し続けております。面目ない。。。
そろそろ暑さもひと段落。。。
次のネタ探しでもしようかなっと。
気持ちだけはいつもあるんですが(汗)
がっ。。。がんばります。アセアセ(; ̄ー ̄)
by 春待ち りこ (2013-09-08 12:47) 

春待ち りこ

>かよ湖さん
お返事、遅くなりました。すみません。
そうですか。。。旅行に!!!
それは、名案ですね♪
私がもしも見えてしまったときは、そうしよぉっと。(笑)

私の方こそ、全然書けてない日々。。。
でも、あせらないあせらない。。。マイペースマイペース。。。

って。。。そろそろあせったほうがいいんじゃないか???
と思わなくはないですけど
きっと、そのうち、いつか、
どうしても書きたくなるようなお話が
天から降ってくるはず!!!
……な訳ないか。。。

なにはともあれ、健康第一。。。
元気があれば、何でもできる!!!
ゆっくりのんびり、がんばりましょうね♪
by 春待ち りこ (2013-09-08 12:53) 

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