スナイパー [ちょっと長めの物語]

「先生、危ない!!!」
僕は、そう叫びながら
マイヤー医師に覆いかぶさった

「チッ」

そう舌打ちをしながら
スナイパーは狙撃をあきらめ
どこかへ逃げて行く

「ありがとう。。。
 また、助けられたね
 君は、命の恩人だ。」

マイヤー医師はそう言いながら
僕の手を強く握った

「いいえ。。。
 先生は、多くの人の命を助けている。
 僕はただ、そのお手伝いをしているだけです。」

僕は、マイヤー医師の手を強く握り返す
それは、僕の本心だった。。。

マイヤー医師。。。
彼は、多くの医者が見放すような
ひどい病状のけが人や病人を
何人も治している。。。

ゴッドハンドを持つ医師だ

僕の尊敬するアリア神父も
彼に助けられた一人

もう、長くはない。。。

突然、倒れてしまったアリア神父を前に
何人の医者がそう言って首を横に振っただろう。。。
半ば、あきらめかけたころ
マイヤー医師は、やってきた

「私が、彼を助けましょう。」

マイヤー医師は、そう言って笑った
そして、その言葉通り。。。
たった一日で、アリア神父を元の元気な神父に戻してくれた
もう。。。神業としか言いようがない

だが、マイヤー医師が
神父の治療をしている時
僕は気付いてしまった

一人のスナイパーが
マイヤー医師にライフルを向けていることに。。。

僕は思わず。。。
スナイパーとマイヤー医師の間に立ちふさがった

打たれるかもしれない。。。

一瞬の不安がよぎる
けれど、スナイパーは僕に気づくと

「チッ」

と舌打ちをして。。。
どこかへ消えて行った

命を狙われていると知って
僕は、マイヤー医師を
そのままにはしておけなかった

「先生。。。
 僕に先生の護衛をさせてください。」

アリア神父の命の恩人
そして、これからも多くの命を
助けるであろうこの天才医師を
スナイパーなんかに殺させるわけにはいかない
と僕は思っていた

あれから。。。

何度、マイヤー医師は狙われただろう
もう、数えきれないくらい

その度に僕は、、、
スナイパーの前に立ちはだかった
不思議と僕には、決して引き金を引かない
なにか、理由があるのかもしれないが
それは、僕にはうかがい知れないこと

とにかく、マイヤー医師を守ることが
僕の使命だと信じていた

そう。。。
確かにそう信じ込んでいたんだ

あの日までは。。。

s-0015.png


あの日、僕は散歩の途中
偶然、あのスナイパーを見かけた

もちろん、向こうは気付いていない
僕は、スナイパーの後をつけることにした
隠れ家がわかれば、警察に届けることもできる
そう思ったのだ

スナイパーは。。。川沿いの道を
ゆっくり歩いていた

距離を置いて。。。
僕も後からついてゆく

すると、突然。。。
スナイパーは何かを見つけたらしく
慌てて川の方へ走り出した

急いで後を追う

そこで僕が見たのは
スナイパーが川で溺れている猫を
助ける姿だった

スナイパーは、悪人

何の疑いもなく
そう思ってきた
あの神様のようなマイヤー医師の命を
執拗に狙ってくるあいつは
どっからどう見ても悪人のはずだった

けれど。。。どうだ

彼は今。。。
川で溺れている猫を助けている
自ら、ずぶ濡れになりながら

それは。。。
彼にもちゃんと
暖かい心があるという証ではないのだろうか

ならば。。。

話し合えば、わかりあえるかもしれない
マイヤー医師がどれほど素晴らしい医者なのか
どれほどの命を救っているのか

それを知れば、彼だって
自分のしていることの間違いに気づくはずだ。。。

僕は、そう確信した

「ちょっと、お話をしませんか?」

助けた猫を大切そうに抱えた
ずぶ濡れのスナイパーに
僕は、話しかけていた。。。

「君か。。。
 俺も君と話したかった。。。
 たぶん、誤解があると思っているんだ。
 ここであえて、よかった。」

スナイパーが。。。そう言って笑った
その笑顔は、思いのほか。。。
優しい笑顔だった


s-0015.png

それから、30分後。。。

僕は。。。
胸から血を流して倒れていた
たぶんもう、助からないだろう

あのマイヤー医師なら
もしかしたら、治すことが出来るかもしれない

けれど。。。
それは、無理な話

なぜなら。。。
僕のこの胸に銃弾を撃ち込んだのは
まぎれもなく。。。
マイヤー医師、その人だったのだから

そう。。。

僕は、マイヤー医師に打たれた
あのスナイパーは、僕の隣に転がっている
もうたぶん。。。生きてはいまい

スナイパーは、僕に驚くべき真実を教えてくれた
それは、マイヤー医師の本当の目的

マイヤー医師は。。。実は
悪魔と契約を結んだ悪の手先だったのだ
彼が奇跡的に助けた沢山の患者たち
その人たちは生きていればやがて。。。
大量殺人を起こす人たちだった

あるものは。。。テロリストになり
あるものは。。。猟奇殺人を繰り返し
あるものは。。。
武器商人として多くの殺人兵器を売りまくる

直接的に
あるいは、間接的に
生きていれば、多くの罪を犯す人を選んで
マイヤー医師は助けてきたのだ

助ける代償として。。。
悪魔との契約をさせながら

彼は、人助けをしているふりをしながら
人類を。。。恐怖に陥れるための人材を
着々と確保していた

そんな話。。。
最初は信じられなかった
でも。。。スナイパーが言った

「嘘だと思うなら。。。
 携帯でニュースを見てみろよ。
 君のよく知る人が
 ついに契約を実行したみたいだから。」

僕は、持っていた携帯で
ニュースを見た
そこには。。。
ハイジャックされた旅客機が爆発炎上し
乗員乗客、全員死亡とのニュースが

そして、犯人として。。。
僕の尊敬するアリア神父の名前が記されていた

そんなばかな。。。

ということは。。。
僕は今まで、いったい何をしていたんだ?

どこにぶつけていいかわからない
そんな怒りがふつふつと湧きあがってくる

「っで。。。
 こんな話を知っている
 あなたは、何者?」

僕は、スナイパーに尋ねた

「俺か?
 俺は、神様に頼まれて奴を殺すために
 人間に転生してきたんだ。」

「それを今まで僕が
 邪魔してきたってことか。。。」

「君は、勇敢だったよ。。。
 君のような正義感の強い人間を
 俺には殺すことは出来なかった。
 だから言ったろ。。。誤解だって。。。
 これからは、俺に協力してくれないか?
 一緒に奴とたたかお・・・・・。」

Bon!!!

突然、鳴り響いた銃声と共にスナイパーが倒れる

振り返るとそこには、マイヤー医師が立っていた
そして。。。彼の持つ銃口は
今度は僕に向けられていた

次の瞬間。。。

僕は胸から血を流し
このザマだ。。。
間抜けな結末だな。。。

僕はいったい何をしていたんだろう
正しいと思っていたんだ
僕は、正しいことをしているって。。。


目の前には
スナイパーが助けた猫が
ミーミーと小さな声で鳴いていた

「お前だけでも助かって
 よかったな。。。」

僕はそう呟いて
静かに目を閉じた。。。


s-0015.png

「よし、準備完了。。。」

そう言いながら
愛用のライフルを肩にかつぐ

神様の依頼を受けて
スナイパーとして
僕は、転生したのだ

もちろん、ターゲットは
マイヤー医師。。。

本当は、もっと早く
マイヤー医師を始末出来るつもりでいたが
いつも。。。
護衛の青年が僕を阻止するんだ

その青年の目は
とても澄んでいて
あれは間違いなく。。。
正義の目だ

あの目を見ると
思い出す。。。
前世での僕をさ

もしかしたら
あのスナイパーも
そうだったのかもな

ふと、そんなことを思った

案外、以前は。。。
マイヤー医師の護衛をしてたとか

まさかね。。。

まっ。。。どっちにしても
あの青年の誤解は
早く解きたい。。。

僕たちの敵は
たぶん同じはずだから

「そうだよな。」

僕は、飼っている猫の頭をなでて
そう言った

この猫は。。。

あの日、スナイパーが
川から助けた猫の生まれ変わり

今では、この世でたった一匹の
僕の相棒だ

あの日と同じように
ミーミーと小さい声で
相棒は鳴いている。。。

命の恩人であるスナイパーの仇を
早くとって。。。
と言っているのかもしれない

「わかってるって。
 今日こそ必ず仕留めてやるさ。」

僕は、深く息を吸い込むと
ライフルをもう一度
しっかり肩にかつぎなおした。。。

            おしまい

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コメント 6

もぐら

りこさん おかえりなさい。
待ってましたよ。

今回はハードボイルドタッチですね。かっこいい!
そうかぁ。悪魔との契約なんてやっぱり人は死ぬのはこわいのでしょうね。
でも運命は廻ってる?
by もぐら (2012-09-10 23:19) 

haru

意表をつくストーリー展開。
悪事に導く為に人の命を救う医師、
神父さんまでもが。。。
何が善で、何が悪なのか。。。

とっても面白かったです。パチパチ(拍手)

by haru (2012-09-11 19:06) 

リンさん

何だか、永遠に続きそうなお話ですね。
マイヤー医師というより、悪魔と戦っているんですね。
人間の本性ってわからないものですね。
読みごたえがあって面白かったです。
by リンさん (2012-09-12 19:55) 

春待ち りこ

>もぐらさん
ただいまです♪
待っていていただけて、嬉しいです。
ようやく、ネットも安心モードに。。。よかったぁ。。。

今回のお話は
夢で見たんですけど。。。
夢の中ではもっと、ハードボイルドな感じでした。
なにぶん、文章力が足りなくて。。。(汗)

運命は、くるくると巡るんですね。。。タブン。。。
そして、やがて。。。
護衛の青年もスナイパーに。。。なるんでしょうか。(笑)
by 春待ち りこ (2012-09-13 21:34) 

春待ち りこ

>haruさん
読んでくださって、ありがとうございます。
今回のテーマは。。。
目に見えてるものだけが、正しいと思っていると
きっと人生。。。後悔するぜ!!!
。。。です。(笑)

それぞれの正義に守られて
世の中は成り立っています。
どの正義が正しくて
どの正義が間違ってるのか
そもそも、正解なんてあるのか。。。

世界中で、いろんな事件が起こっていて
考えさせられる毎日です。(~_~;)
by 春待ち りこ (2012-09-13 21:39) 

春待ち りこ

>リンさん
終わらない。。。そうですよね。
永遠に続きそうですね。
そもそも、わかりあえないなら。。。
殺してしまえ!!!
という解決策が、間違ってるんじゃないのか。。。
とも思ったり。

見た目と本質
見極めるのは難しいですね。
現実世界で。。。
私もよく。。。見誤ります。
慎重に物事を観察する目が、欲しいです。。。

読んでくださって、ありがとうございました。
by 春待ち りこ (2012-09-13 21:43) 

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