再会 [小さなお話]

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「あっちいなぁ。。。」

もう9月も半ばだというのに
茹だるような暑さが続いていた

僕は、たまらず。。。
ネクタイを首から外し
鞄に無造作に突っ込んだ

「おい。。。川口じゃないか?」

不意に、後ろから名前を呼ばれ
誰かと思いながら振り返ると
そこには、高校の時の同級生
「松山」が立っていた

「松山かぁ。。。
 久しぶりだな。
 えっと。。。
 15年振りだっけ?」

「おぅ。
 15年振りだな。
 元気にしてたか?」

「あぁ。元気は元気だが
 この暑さにはちょっとまいるね。」

僕はそう言って笑った

ギラギラと輝く太陽は
容赦なく僕らに降り注いでいる

「何をひ弱なこといってんだ。
 夏は暑いって決まってんだよ。」

「夏って言っても
 もう、9月だぞ。」

昔から、弱音を吐かない奴だった

「松山は、変わんないな。
 昔から。。。
 突然、野良犬に襲われても
 向かっていっちゃうし
 自分が正しいと思えば
 先生にだって食って掛かった。」

「ああ。。。
 男は、強くてナンボの生きもんだからな。」

「お前。。。いつの時代の人間だ?
 お前みたいなのを無鉄砲っていうんだよ。
 そんなこと言ってると
 熱中症でやられるぞ。。。」

「俺は、そんなふうにはならないよ。」

どこまでも強気な奴だ
そんな松山を見ていたら
ちょっと、からかってやりたくなった

 「でもあの頃さぁ。。。
 さすがのお前も。香ちゃんにだけは
 一言も話しかけられなかったよな。
 ほら、あの文化祭の日のこと
 憶えてるか?
 あんときの真っ赤になったお前の顔
 今でも思い出すよ。」

僕がそういうと、松山の顔が
みるみる真っ赤になってゆく

香ちゃんっていうのは、高校時代に
隣のクラスだった可愛い女の子

僕らの学年のマドンナ

松山は、香ちゃんのことが好きだった
普段は強気な奴だったけど
彼女の前では、いつもモジモジ

実は、僕も。。。だったけど

「香ちゃん。。。
 今頃どうしているのかな。。。」

僕がそう言ったとき
松山は、意外なことを言った

「俺。。。
 今、香ちゃんと一緒にいるんだ。」

「えっ?そうなの?
 結婚したのか?」

「結婚というか。。。
 たぶん、永遠に一緒にいると思う。」

「おいおい。。。永遠って
 よくそういうこと言えるね。。。
 ごちそうさま。
 香ちゃん、変わってない?」

「うん、ぜんぜん変わらない。
 綺麗で、素敵だ。」

「はいはい。。。もうわかったって。
 じゃあ今度、3人で酒でも飲もうよ。」

「そうだな。。。そうしよう。」

「じゃあ、近いうち。。。」

「おう。じゃあな。」

僕は松山と別れて
家路についた。。

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その夜

窓から月明かりが届く
自宅のキッチンに。。。
僕は、手作りの料理と
キンキンに冷やした冷酒を用意した

杯は。。。三つ
よし、これで準備完了だ

ここで、ふと思い出す。。。

「あっ。。。ネクタイ。」

僕は、鞄の中から
突っ込んだままになっていた
黒いネクタイを取り出して
タンスの中に仕舞った

s-0166.png

今日、僕は。。。
友人の葬式に行った

松山に会ったのは
その帰り道だったんだ

びっくりしたよ

だって、松山。。。
僕は、お前の葬式に出た
その帰り道だったんだから

だけど、思ったんだ
お前。。。
最期に会いに来てくれたんだよな

だから、僕もお前が死んだこと
知らないふりをするって決めたんだ

これでも、泣きそうだったんだぜ

お前と別れて
家に帰ってから
電話をかけて確かめた
香ちゃんと仲の良かった沢村さん。。。
彼女に聞いたよ
香ちゃんも亡くなっていたんだな

10年も前に。。。

変わらないはずだ。。。
綺麗なはずだ。。。

でも、切なかったよ

お前がこれから天国で
一人じゃないっていうのが
せめてもの救いかな。。。

お前も。。。香ちゃんも
せっかち過ぎるよ

早すぎるよ。。。

約束したからな
今夜、3人で飲もう。。。

僕が全部、用意したんだぜ
一人暮らしも長いから
料理には、自信あるんだ。。。

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今夜は、朝まで飲むぞ。。。
覚悟しろよ

僕は、三つの杯に冷酒を満たす

MB900417180.JPG

「それじゃ。。。
 ホントに今まで、お疲れ様。
 最期に会いに来てくれてありがとう。
 嬉しかったよ。。。
 そっちで、香ちゃんと一緒に
 仲良くな。。。
 でもさ。。。
 僕が行ったら、仲間に入れてくれよな。

 じゃあ。。。
 久しぶりの再会と
 松山と香ちゃんの永遠に。。。

 献杯。。。」

MB900055187.JPG

窓から見える月に向かって
杯を高くあげる

二人の冥福を
心から祈りながら。。。

それから僕は
注がれていた冷酒を
ゆっくり。。。静かに。。。
飲み干した

       おしまい

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コメント 8

もぐら

この作品 好きです。
おどろきの展開でなんだか涙が出ちゃいますね。

あ~秋なんですね。
まだ昼は暑いけど。
by もぐら (2012-09-14 16:22) 

haru

ポロリと涙がひと雫。。。
そんなステキなストーリーですね。
黒いネクタイがキーワードだったんだ。

それにしても暑いです。
そちらはもっとかな?
北海道でこの気温は辛いものがあります。(^^;
by haru (2012-09-15 12:50) 

リンさん

いいお話ですね。
途中でおそらく松山君と香ちゃんは死んでいるのかな、と思ったけど、知ってて知らないふりをした友情にほろりときました。
3人分の杯を用意して月を見ながら飲む。
きっと亡くなった彼らも一緒に飲んでいると思いますよ。
こっそり空から降りてきて。
by リンさん (2012-09-15 14:09) 

春待ち りこ

>もぐらさん
秋だというのに。。。暑いですね。
身体の方がバテバテです。早く涼しくならないかなぁ。

お話の構成をあまり練らないで書いたので
ちょっと、メッセージ性に欠ける作品になってしまいましたが
楽しんでいただけたのなら、嬉しいです。

どうも。。。この暑さに負けて
ツメの甘い話しか思い浮かびません。
気合い。。。入れてかないと。。。(汗)

でも、楽しんで書きました。
この間、高校の同窓会があって
やっぱり、他界していた人もいて
でもね。。。あの日、それを知るまでは
私の中ではその同級生たちは
生きていたんですよ。。。不思議な気がしました。
それで、こんな話にしてみました。。。
ちょっと切なかったので。。。
by 春待ち りこ (2012-09-18 00:10) 

春待ち りこ

>haruさん
そう。。。
ネクタイの伏線を張っておきました。
一つくらいは、張っとかないと。。。(笑)
なんだか、スランプというか
気力が足らないというか
書き始めるといいんですけど
書き始めるまでが、どうも。。。

それでも、思いついたらボチボチと書きたくなるから
あせらず、がんばっていきますね。
まだ暑いですけど。。。もう少しの辛抱ですよね。
ご自愛くださいね。。。
by 春待ち りこ (2012-09-18 00:15) 

春待ち りこ

>リンさん
そうですね。。。
きっと、空から降りてきますよね。

このお話で一番意識したのは。。。
久しぶりにあった友達との会話。。。
時間が隔てた友との距離が
一言、二言の会話で縮まる感じを書きたかった
。。。というのも
先日、同窓会があって
ウン十年ぶりに会った友達と
何を話せばいいのかって心配してたんですけど
「久しぶり!!!」って合言葉でね。。。
時間が隔てた友達との距離が
すぐに縮まるってことを体験しました。
不思議でした。。。ホントに久しぶりなのに
やっぱり、友達なんだなぁ。。。と思って
ちょっと、感動しちゃいました。

出来てたかなぁ?
自信はないけど、でも楽しんでいただけたのなら
よし。。。ってことにしておこうっと。( *´pq`)クスッ
by 春待ち りこ (2012-09-18 00:24) 

海野久実

僕なら…

>僕は松山と別れて
>家路についた。。

の後あたりで感情が爆発しちゃいそうですね。
主人公の感情がね。

ところで僕は同窓会の世話人をやってまして、この8月に4年に一度の同窓会を済ませました。
友達に誘われたから仕方なく世話人に名前を連ねてますが、そうでなかったら多分同窓会には参加していないかもしれませんね。
往復ハガキの返信に「欠席」に丸を付けて送り返してると思います。
世話人をやってても同窓会本番にはなかなか行きたくないんですねー
友達に会っても何を話せばいいのかわからないし。
終わるまでの時間をもてあましちゃうんですね。
ところが今年はなんだか楽しかったです。
歳をとるにつれて僕が変わって来たのかもしれませんね。

by 海野久実 (2012-09-19 13:09) 

春待ち りこ

>海野久実さん
ふふっ。。。
沸点は、献杯までとっておきました。(笑)
なんだか、だらだら書いてますが
。。。リハビリ、リハビリ。。。
えっ?言い訳???。。。かも( *´pq`)クスッ

同窓会の世話人ですか?
ご苦労様です。
私も先日ウン十年ぶりの同窓会に行ってきました。

何を話していいのやら。。。
と思っていたけど
メッチャ楽しかったです。

まさかの恩師とブログ友達になったり。。。

思ってもみないことが
おこるものですね。
こういうふうに楽しめるのってやっぱり
私もそういう歳になったってことなんですね。。。(汗)
by 春待ち りこ (2012-09-20 08:41) 

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