老人と海。。。じゃなくて、星?(ちあきさんシリーズ???) [ちょっと長めの物語]

午後の優しい陽だまりの中
香りのよい紅茶を飲みながら
クッキーを食べていた。。。
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いつも穏やかで無口な敏子さんと
ちあきさんと私。。。

ここは、私の働く
特別養護老人ホーム
何かと小さな事件の絶えない
この職場だが
こういうひとときは。。。
本当に癒される

それは、ここの入居者さんである敏子さんの
優しいほほえみのおかげだ
暖かな陽だまりの中の敏子さん
この方はきっと
幸せな人生を送ってこられたのだろう
そりゃ、若い頃は
きっといろいろなことがあったと思う

でも。。。

人生の終盤を過ごすこの場所で
こんなに穏やかに笑えるのだから
それはきっと。。。
今のこのほほえみに必要だった試練だったに違いない

……なんて

新米のヘルパーの私が
こんなことを思うのは
ちょっとエラそうかな。。。

「いつもよくしてもらって
 あなたたちには本当に感謝しているのよ。
 こんな老人の世話なんて
 面倒でしょ。。。
 本当にごめんなさいね。」

敏子さんが言う

「面倒だなんて、そんなことないです。
 これは、私たちの仕事ですし。。。
 それにご老人の介護するのは
 若者の義務でもあります。
 助け合うのは、当たり前のことだから。
 私達も何か困ったときには
 目上の方の知恵をお借りします。
 もちろん、敏子さんのことも
 頼りにしてますよ。
 だから、そんなにお気になさらないでくださいね。」

どうだ!!!
私の答えは、満点でしょ

そんな思いで
私はちあきさんをちらっと見る

ちあきさんは、何にも言わず
ただ、紅茶をゆっくりと飲んでいた

ちあきさん。。。
ここで働く先輩ヘルパーさん
この特別養護老人ホームの入居者さんのことは
たぶん、誰よりもよく知っている凄い人

私は、たくさんのことを
ちあきさんから教えてもらった
それでも、まだわからないことばかりで
時々?失敗もする
凹むことも多いけれど
何とか頑張っていられるのは
ちあきさんのおかげだ

ちあきさんがいてくれるから
ここに入って。。。まだ、日の浅い私だけど
精一杯やろうって気になる。。。のだ



「知恵だけあってもね。。。
 どうしようもないこともあるのよ。
 老人だけでは
 どうしようもない。。。
 だからね、ほっとけばいいのよ。
 ほっといてくれさえすれば
 こんなことには。。。」

突然、さっきまでにこやかだった敏子さんが
こんなことを言って、泣き出してしまった

なんで???

私、またなんか悪いこと言ったの???
敏子さんを傷つけた???

頭の中は、パニック。。。
なんと言葉をかけていいかもわからない

たすけて。。。ちあきさん!!!

いつもの困ったビーム発射
この視線をちあきさんに投げかけると
ほぼ確実に。。。私を助けてくれる

私にとって、ちあきさんはまるで。。。
スーパーマン!!!

いや。。。
スーパーウーマンだ!!!

でも、どうして。。。

敏子さんは、急に泣き出したりしたのだろう。
やっぱり私の。。。せい?


「敏子さん。。。
 よかったら、話してくださいませんか?
 敏子さんのお話。。。
 もしも、敏子さんがそのことを話してくださるほどの信頼を
 私達がいただけているのであれば。。。
 ぜひ、聞かせてください。
 もちろん、無理にとは言いませんが。。。」

ちあきさんが。。。意味深な発言をする
敏子さんに何があったっていうの???
幸せに生きて、歳をとり
穏やかに笑っているんだとばかり思ってたけど
違うの???

そっか。。。違うんだよね。。。

ちあきさんが何かあると思っているなら
そこには、絶対何かあるんだ。。。
今までだって、ずっとそうだった
今回も。。。たぶん。。。そう

敏子さんは泣くのをやめて
さっきとは打って変わったような静かな声で
ゆっくりと語り始める

「そう、それなら。。。
 信じてはもらえないかもしれない。
 でも、信じてくれなくてもいいから
 聞いてもらおうかしら。
 実はね。。。私。。。宇宙人なの。。。」

でっ。。。でたぁ~
まさかの宇宙人カミングアウト
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ここで働き始めてから

いろんな入居者の方を見てきた
自分は。。。実は。。。

スパイだとか
大金持ちだとか
殺人鬼だとか
予知能力があるとか

多くの方は、嘘を言ってるわけではなく
本当にそうだと思い込んでいるのだ
だからいっそう、対応が難しい。。。

そうそう。。。

「シンデレラ」っていうのもあったなぁ

これは。。。
嘘のようなほんとの話だったけど。。。

まぁ、これはまた。。。
別のお話。。。ふふっ

そして、今回は。。。
宇宙人いただきました♪ハイ!!!

あからさまに否定するのは
だめだったよね

こういう場合は、まず
話を合わせるんだっけ?

「そうなんですか。。。
 敏子さんの星は、どんなところだったのですか?」

ちあきさんは、少しの動揺もなく
当たり前のようにこう聞いた

そっかそっか、さっすがだなぁ。。。

「綺麗な星だったわ。
 ここと同じように、水の惑星。
 生き物もたくさんいた。。。
 あの日までは。。。」

「あの日?」

ちあきさんが、心なしか前へ身を乗り出したように思えた

「そう。。。あの日。。。
 それは、遠い遠い星の爆発が原因。。。
 大量の放射線が私たちの星に降り注いだの。
 天文学者の計算では
 私たちの星には届かないだろうって言っていたのに
 想定外だと。。。」
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「超新星爆発?」

ちあきさんが、私の知らない四文字熟語を口走る

えっ?四文字熟語じゃない???
しかも、五文字???

まぁ。。。知らないってことに関しては同じだから
勘弁しといて。。。あははっ

「よく知ってるわね。
 まさにそのとおり。
 星には、寿命があるものね。。。
 仕方のないことだったわ。
 ともかく、私達はシェルターに避難することになったの。
 私の星では、とにかく子供と老人。。。
 体の弱い者の最優先が常識。
 若くて力のあるものは
 その避難の手助けをしてくれた。。。」

「素晴らしい星ですね。」   

私は思わずそう言った。。。
本当に理想的な星だと思ったのだ

でも、ちあきさんが
私を睨んでいるのに気が付く

あれ?
また、私。。。何か間違った???

敏子さんが、話を続ける

「素晴らしくなんかないの。
 間違っていたのよ。
 結局、若い人たちは、みんな。。。
 逃げ遅れた。。。
 強い放射線をあびて。。。
 ほぼ、即死状態ね。。。
 シェルターの中に残されたのは
 老人と。。。子供。。。
 そして、病人ばかり
 私たちの星の文明は
 地球より少しだけ進んでいたの。
 だから。。。
 放射能の除染知識も技術もあった。
 でも、実行できる体力が、誰にもなかった。
 頭だけでは、だめなのよ。。。

 そして、シェルターでの地獄のような暮らしが始まったわ。
 感染症も増えていって。。。
 もともと体の弱い者ばかりだったから
 一年もしないうちにほとんどの人が
 次々と死んでいった。 
 最後に残ったわずかな人達で話し合い
 星を捨てることにしたのよ。
 自分たちの星に似た環境の星をピックアップして
 何人かずつに分かれて
 移住することを決めた。
 幸い、シェルター自体が
 避難用の宇宙船になっていたから
 ボタン一つで宇宙に飛び出すことが可能だったの。
 私は、この地球に移住することになった。

 ここは、私の星の環境に凄く似ていて
 住みやすい場所だったわ。
 ラッキーだったわね。。。

 でも、いつも思うのよ。。。
 あの時、私達でなく
 死んでいった若者たちがシェルターに避難していれば。。。
 おそらく、私の母星は今も。。。
 にぎやかで美しく。。。
 活気にあふれた星だったろうって。。。

 そう思うたびに確信する。

 私達は、間違えたの。
 老人なんて、ほっておけば良かったのよ。。。」

敏子さんは、ここまで話すと泣き崩れた
ちあきさんは、敏子さんに近づいて
ゆっくり背中をさすりながらこう言った


「敏子さん。。。
 つらいことなのに
 話してくれて、ありがとう。。。
 とっても参考になったわ。
 もし、同じようなことがここでおこったら
 私は、絶対逃げきってみせる。
 せっかく、こんなに大切なお話
 聞かせていただけたんだから。。。」

「そうよ。。。あなたは絶対に逃げてね。
 老人なんてほっておきなさい。」

敏子さんは、顔をあげてそう答えた
ちあきさんは、頷きながらにっこり笑う

……って。。。
えっ???
逃げるの?

入居者さんを放って。。。
逃げちゃうの???

ちあきさん。。。
それって、ほんと???


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一日の仕事が終わり
職員専用のロッカールーム。。。
私服に着替えながら
私は、ちあきさんに話しかける

「あの。。。さっきの話ですが
 入居者さんを放って逃げるんですか?」

すると、ちあきさんはケラケラ笑い出した

「逃げるわよ。。。
 でも、入居者さんもいっしょにね。
 それでも、私は逃げ遅れないから。。。

 それとも、私が逃げ遅れて死んでくとこ
 想像できる?」

「……えっ。で、出来ません。。。」

たしかに、ちあきさんが逃げ遅れるなんて。。。
ありえない。。。考えられない。。。
理由はたったひとつ

だって、ちあきさんだから!!!

「っでしょ。だったら、私はみんな助けて
 私も助かる。。。
 それにしても、勉強になったわ。
 この星で、もしもそういうことが起こった場合
 私の私的マニュアルの対処法を
 『急いで逃げる。。。』のではなく
 『相当急いで逃げる。。。』に書き換えたわ。
 念には念を。。。ということね。」


えっ、そういうことなの?

でも。。。
私はなんだか、ほっとした


「ところで、敏子さんが宇宙人だって話
 ちあきさんは、信用してるんですか?」

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「もちろんよ。
 だって、敏子さん。。。
 血がね。。。緑色なのよ。
 前に敏子さんの擦り傷の手当てをしたとき
 気が付いてたわ。。。
 あぁ。。。地球人じゃないなって。
 でも、たいしたことじゃないから
 誰にも言ったことないけど。。。」

……。

たいしたことじゃないって
そう思うちあきさんのほうが
私にとっては宇宙的神秘。。。だ

「まぁ、私たちにとっては
 ここに入居されてる方が
 地球人だろうが宇宙人だろうが
 全く関係ないでしょ。
 一生懸命、お世話をするだけ。。。」

まったくもって。。。おっしゃるとおり。。。
ちあきさんらしい

「そうですね。。。
 私もなんだか、そんな気がしてきました。
 そっか。。。
 たいしたことじゃないですよね。。。
 ……んっ???」

う~ん。。。
やっぱり何か、違う気がする。。。

「じゃあ、お疲れ様。
また明日ね。。。」

「はい、お疲れ様です。」

私は去っていくちあきさんの
背中を見つめながら思った

ちあきさんにとっては
国も。。。星も。。。現実も。。。幻想も。。。
関係ないのだ

そんな常識を超越した世界観で
毎日を送っている。。。
頼もしき先輩

さっすが、ちあきさん。。。

そして、いつもながら。。。
また、思ってしまう

ちあきさんがいてくれるから
ここに入って。。。まだ、日の浅い私だけど
精一杯やろうって気になる。。。のだと

                  おしまい



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更新、また久々になってしまいました。。。スミマセン。。。
おかげさまで
昨日、娘に看護学校の合格通知が届きました。。。

中学生の頃から、看護師志望だったので
ようやく夢に一歩近づいた。。。というところです。

これで、少しは落ち着くかなぁ。。。

以前書いた。。。ちあきさん。。。
同じ設定で、もう一本書いてみました。。。

楽しんでいただけましたでしょうか???
あまり、自信はないですけど
こちらは、楽しんで書きました!!!

これが一番、大切ですね。(。 ゝ艸・)クスクス

また、よろしくお願いいたします。。。
               
                     春待ち りこ

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haru

娘さんの看護学校合格オメデトウ(^▽^)ゴザイマース☆彡(☆∀☆)

私も母もヘルパーさんのお世話になっているので、人ごとではなく読ませてもらいました。
私の担当のヘルパーさんは元美容師さんで、とっても可愛らしい方です。
なんといっても明るさがいいです。笑顔が素敵なんです。
いろんなことを話ます。担当の看護師さんも若くてステキな方です。
娘さんもどうか笑顔のステキな看護師さんになってもらいたいです。

by haru (2012-10-25 20:10) 

もぐら

お嬢さん 看護学校 おめでとうございます。
夢に向かって一歩ずつ前進するお嬢さんにエールを送ります。
もちろんりこさんさんにも。
顔晴れー。

ちあきさんシリーズになったんですね。
それにしても本当にいろいろな方が入居していらっしゃる。(ーー;)
シンデレラに宇宙人・・・。
でもちあきさんのような何があっても動じない人を総理大臣も見習って
くれたらいいのに。
楽しかったです。(^-^)
by もぐら (2012-10-26 15:48) 

海野久実

お嬢さんよかったですね。
希望がかなって一安心。

ちあきさんシリーズはなかなか快調ですね。
そのうち謎解きのあるちあき探偵シリーズみたいなのも読んでみたくなります。
ちあきさんならきっと名探偵になりますよ。
by 海野久実 (2012-10-26 18:26) 

春待ち りこ

>haruさん
ありがとうございます。
ようやくこれで、一安心。。。
ヘルパーさんも看護師さんも大変なお仕事だけど
笑顔でいてくれるとまわりも安心しますよね。
どうか、そんな笑顔の似合う看護師さんになってほしいなぁ。。。
(・・*)。。oO(想像中)
ん? なれるのか???ちょっと心配ですが。。。
今は入学手続きとかで、ドタバタしてますが
もうすぐ、少しは落ち着けると思っております。
また、よろしくお願いいたします。(^^)/
by 春待ち りこ (2012-10-27 00:41) 

春待ち りこ

>もぐらさん
ありがとうございます。
中学生の頃から、看護師になりたいと言い続け
本当に看護学校へ行くことになりました。
親としては、心配なこともありますけど。。。
頑張ってほしいなと思っています。

ちあきさんのキャラは、個人的に気に入っていて
この設定でまた書いてみたいなぁ。。。とずっと思ってました。
少し時間が出来たので。。。さっそく。。。
こういう話は、書いていて楽しいです。
また、機会があれば書いてみたいなぁ。( *´pq`)クスッ
いっそ。。。総理大臣にしちゃいましょうか。。。なんて(笑)
by 春待ち りこ (2012-10-27 00:58) 

春待ち りこ

>海野久実さん
ありがとうございます。
本当にほっとしました。
看護師さんになるための第一歩
ようやく踏み出せたようです。最後まで、頑張ってほしいなぁ。

ちあきさん探偵。。。
素敵ですね。
ミステリーは挑戦してみたいジャンルですが
謎解き。。。思いつきません。
トリック。。。考えつきません。。。
ちあきさんが探偵になれる日は、遠そうです。(T_T)
by 春待ち りこ (2012-10-27 01:04) 

リンさん

ちあきさん、かっこいい!
こんな人が近くにいたら安心ですよね。
敏子さんが宇宙人というぶっ飛んだ設定も何のその。
おおらかですね。

娘さん、看護師さんになるんですね。
夢に向かって進んでいく姿は頼もしいですね。
うちの娘はな~んにも考えていないので、羨ましいです。
by リンさん (2012-10-31 16:35) 

春待ち りこ

>リンさん
そうなんですよ。。。
中学生の時に看護師になると決めてから
変わりませんね。。。でも。。。
夢に向かって!!!
というより、専門学校も指定校推薦がもらえたので
受験は。。。面接オンリー。。。
もう進路が決まったので
テスト勉強もせずに、遊びまくっている今日この頃。。。
あんなんでいいのか???
とりあえず、影から応援していたいと思います。
優しい看護師さんになってくれますように。。。

ちあきさん。。。
このキャラ、少し気に入っているので
第二弾を書いてみました。。。
気に入っていただけたのなら嬉しいです。
それにしても、この老人ホーム、ぶっ飛び過ぎかな(笑)
でも、楽しんで書きました。
読んでくださって、ありがとうございます。(^^)/
by 春待ち りこ (2012-11-02 19:26) 

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